作業療法士ICが伝える部屋別チェックポイント 55歳からのインテリアの作り方【ダイニング】
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ダイニング ~”つまる”と座位姿勢のはなし~
家の中の事故で一番多いのは「つまる」
これまで「家の中は危険がいっぱい」というテーマで、「転ばないため」「おぼれないため」のインテリアの工夫を部屋ごとにお伝えしてきました。実は、家庭内の不慮の事故による死亡原因で一番多いのは 「つまる(誤嚥)」 とも言われています。
お食事中にのどに異物が詰まってしまう事故が非常に多いのです。
こればっかりはインテリアの工夫では防げないのでは?と思われるかもしれませんが、今回はお食事の場、ダイニングルームをテーマにお話をしたいと思います。
正しい座位姿勢のために
誤嚥を防ぐためにインテリアの力で唯一できることは、ズバリ「正しい姿勢で座れる椅子を選ぶこと」。
ですから自社のインテリアショップで、私は作業療法の視点でアドバイスをする”やけに座位姿勢にうるさい店員”でもあります。
「椅子の高さは人によって調整が必要です!」
「特にご年配で小柄な方は、一般的なシートハイ42〜45cmでは足が床につかず不安定なのです!」
「足底がしっかりつかないと、体幹が弱ってくるととても疲れてしまうのです!」
と、ご説明してご理解いただき、使われる方に合わせてダイニングセットのテーブルの脚や椅子の脚をカットして使いやすい高さに調整するということをよくやっています。

ダイニングチェア選びのポイント
年齢を重ねるほど、自宅で座って過ごす時間も増えますし椅子はとても大切です。
弊社は店内にわざと70種類以上のダイニングチェアを置いており、座り比べて体感していただいています。
どのイスが心地いいか、使い勝手がいいかは、体格や背中の骨のでっぱりなどによって人によって違うこと、やみくもに座り比べると迷ってしまって決められなくなりますが、「選ぶ基準」を知っておくとスムーズです。
私が考える椅子選びのポイントを4つお伝えしましょう。

弊社・ミヤカグの店内。ダイニングセットをご購入いただくときも、それぞれに座り比べてお好きなのを選んでいただくので、四脚全部バラバラということが大変多いです。
▼ポイント1:取り回しの良さ(扱いやすさ)
まず、座り心地の前に使い勝手の良い椅子つまり、取り回しの良い軽い椅子というのも、ご年配の方にはおすすめです。
「家の椅子が重すぎて、取り回しも大変だし、掃除も大変だし・・・軽い椅子に買い換えたいわ」というニーズは多いものです。
▼ポイント2:座面構造

椅子の座面野構造は、大きく分けて3パターンあります。
①座板なしで、ウェービングテープや布ばね
②合板の座板+ウレタン(最も一般的)
③無垢の厚い板で座面が作らている板座
最も軽く、体圧分散がよく、座り心地が楽なのは①のタイプです。
見分け方は座面の真ん中を手のひらで押してみると、底つき感がなくて弾力性があるのでよくわかると思います。
▼ポイント3:張地

大事なポイントは以下の2つです。写真の椅子なら、左側がおススメです。
● ファブリック(布)は摩擦があり、姿勢が安定する。
● 革や合皮は滑りやすく、体幹に負担がかかる。
でも、これはダイニングの椅子よりもソファのほうが顕著にあらわれます。
摩擦のあるもののほうが楽です。革のソファに座ったらだんだん身体がずれていって時々よっこいしょと体勢を整える必要がでてきます。
それだけ常に体幹に力を入れてずれないようにこらえないといけません。
体幹が弱った方だとこらえきれずにどんどん姿勢がずれてきてしまいます。

▼ポイント4:アーム(ひじ掛け)の形

こちらもポイントは2つ。
● フルアームよりも ハーフアーム(ちょい肘) がおすすめ。
● 立ち座りの際に大きく椅子を引かずに済むので、日常動作がスムーズ。
ひじ掛けのある椅子はゆっくり座るには楽なのですが、運動機能が低下してきたご年配の方におすすめするなら、写真右側の”ちょい肘”のほうがおすすめです。
ダイニングテーブルに向かって座っているとテーブルから椅子を引いて立たないといけません。
肘かけが長いとよりたくさん椅子を動かす必要があり、立ったり座ったりの動作の時にストレスが少なくできるのは、ひじ掛けが長すぎない椅子です。ちょっと引くだけで脚をまわして立ち上がることができるからです。
まとめ:使い勝手がよくて座り心地の良い椅子の条件
以下の条件を満たした椅子は、毎日の食事を安全で快適にしてくれますから、ご年配の方におすすめするときには特に気を付けています。
- 取り回しの良いもの
- 高さと奥行きが体格に合ったもの
- 適度な硬さと体圧分散性
- 軽くて安定の良いもの。(運動機能が低下してくるとキャスターつきは危ないです)
- ファブリックなど摩擦のある素材
- ハーフアームで立ち座りしやすい

私が特に気に入っておすすめするのはこちらです。
びっくりするほど軽いけど安定性はよく、沈みすぎず、耐圧分散よし。背中のあたりもとてもよくて、さらにちょい肘。
番外編:車いすについて
高齢者施設でよく見かける車いすは、座り心地の条件をすべて満たしていません。
床に足が届かず、沈み込みすぎ、滑りやすい素材、キャスター付き、フルアーム…。
本来「移動のための椅子」なので仕方ありませんが、デイルームでそのまま長時間座って食事をするのは大きな負担です。
この悪条件の椅子で長時間正しい姿勢を保つというのは元気な人でも苦しいもの、ご高齢の方ならなおさらです。
姿勢の崩れ悪影響ばかり。
●食欲の低下
●筋力の低下
●内臓の圧迫
●誤嚥のリスク上昇
だからこそ、 「食事の時にどんな椅子に座るか」 はとても重要なのです。

おわりに
椅子はただの家具ではなく、暮らしの安全と健康を支える大切な道具です。
体に合った一脚を選ぶことは、毎日の食事を安心に、そして心豊かな時間に変えてくれます。
正しい椅子選びの参考になさってください。
執筆者紹介
松本 理絵 氏
作業療法士(国家資格)
インテリアコーディネーター/二級建築士
有限会社宮本家具工業所 副社長
Web
公式:トータルインテリア専門店 ミヤカグ
インスタグラム も更新中
広島県インテリアコーディネーター協会 副会長

広島大学医学部保健学科を卒業し、広島市内にて作業療法士として病院で高齢者のリハビリの仕事に従事。
その後、結婚を機に夫の家業である家具製造販売会社に入社。
入社後インテリアコーディネーター資格、二級建築士資格を取得し、現在では「広島一敷居の低いインテリアコーディネーター」をキャッチコピーに、お客様の生活空間を豊かにするためのインテリアを提供している。
「元医療職をいかして、目の前の困っている人のニーズをしっかり拾って寄り添ったリフォームやアイテム選定など心がけています。」