防犯と防災から考える外構計画【前編】

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防犯と防災から考える外構計画【前編】

マイホームデザイナープラスをご覧のみなさん、こんにちは。
「日本庭女子会~にわとわに~」より、毎月「家の外まわり」=「外構」についてのリアルなお話をお届けするべく始まりましたこのコラム、今回第2回目となります。
初回に続き、わたくし株式会社アフロとモヒカン芦川がお届けいたします。(プロフィールはこちら)

第1章「暮らしを左右する”家の外まわり”の基本」では、家づくりのはじまりと外構の密接な関係やその重要な役割について、家づくりと外構は切っても切り離せないもので、外構を大切に考えることは家づくりの成功に繋がる、ということを現場経験を重ねた視点からお伝えさせていただきました。いかがでしたでしょうか?

前回、「次回からは具体的な手法の話を」と予告をさせていただきましたが、まず最初にぜひ見落とさないでいただきたい観点についてお話をさせてください。

それは、『安心と安全のはなし』です。
そう、家に迫り来る犯罪と災害への対策をいかに施していくか、という「防犯」と「防災」についてです。
昨今の犯罪、自然災害傾向を背景に、「家の外まわり」=「外構」を工夫することで、それらから「家」「自身」「家族」を守ることは果たして可能なのか、どのような対策をしていけばよいのか、一緒に考えてみましょう。

家にまつわる犯罪の傾向とは

最近の「家」にまつわる犯罪について、リフォーム詐欺や車上荒らし、屋外機器・物品の盗難などよく耳にするものが様々ありますが、その中でも一番多いのは侵入犯罪です。

侵入犯罪には「侵入窃盗」(家人が不在や就寝中の家に侵入し金品を盗む)と「侵入強盗」(家人が在宅の家に押入り凶器などで脅し金品を奪う)とがあります。
こっそりと隠れて犯行に及ぶ「侵入窃盗」は、住宅の防犯性能がアップしたことにより減少傾向にはありますが依然根強く、また凶悪な手口で押し入る「侵入強盗」は、近年ニュース等でよく耳にするように増加の傾向にあるそうです。

侵入犯罪から「家」を「自身」を「家族」を守るためにどんな対策ができるのか?
まずはその手口を知ることが大切です。

一戸建て住宅における侵入窃盗のデータ

政府広報オンライン「空き巣や強盗から命と財産を守る 「住まいの防犯対策」をもとにメガソフト株式会社作成

配送や業者を装って押し入るような正面突破型は言語道断ですが、こっそり忍び込むような侵入の経路としては、上記データによると半数以上が「窓」からで、次いで「表出入口」や「その他出入口(勝手口等)」といった、日常的に使用する開口部からの侵入が7割を占めています

侵入手口は、1位が無締り(そもそも鍵をかけていない)、2位がガラス破り、3位が合い鍵だそうです。犯人は、そのような侵入しやすそうな家を事前の下見によってチェックしているそうです。

犯人は侵入しやすいドアや窓を狙っている

もちろん、犯罪を犯す側が100%悪いのは大前提です。
しかし、どこか侵入される方にも隙があり、事前に防ぐ手立てはあったのではないかと感じてしまいます。

こうした「家にまつわる犯罪」について、「家の外まわり」=「外構」で対策可能なことがたくさんあるように感じた方も多いのではないでしょうか。その通りです。
では、住まいを犯罪から守るために、外構をどのように考えていけばよいのか、エリアごとに見てみましょう。

犯罪から家を守る!外構エリアごとの防犯テクニック

ファサード

ファサードとはフランス語で「顔」を意味します。
建物を正面から見た時の外観デザインのことで、そのお宅の「家構え」の印象を決める重要な部分です。
家の計画の際にこだわる方も多いと思いますが、もちろん「外構」もファサードの一部としてその印象を大きく左右します。

では「家の正面」とはどこであるか?
外構も含めて考えると、基本的には前面道路に沿った人や車の主たる出入りがある側になります(立地条件によって例外あり)。

ファサードの説明図

侵入犯罪の多くはファサード側から始まります。
事前の下見で、周囲に気付かれず短時間で侵入できる家と判断されるためです。
しかし、「家の顔」と「防犯」の両立となると、どちらを優先すべきか頭を悩ませる方も多いのではないでしょうか?

クローズドスタイル
門扉や塀・柵でしっかりと囲うスタイル。
防犯性が高い反面、構築物が増えて重厚になり、予算もかさみます。

オープンスタイル
門塀で囲うことなく明るく開放的なスタイル。
明るい印象を保てますが、防犯面に不安が残ります。

セミクローズドスタイル
クローズドとオープンのいいとこ取りですが、
一部を囲うだけで防犯効果が十分なのか迷うところです。

クローズドスタイル、オープンスタイルどれにするか

そんな防犯とデザインを両立させたい悩みに、要塞のように家全体を囲ったり、セキュリティシステムをフル導入したりしなくても実現できるファサードの防犯アイデアをご紹介します。

門まわり

門まわり

門まわりは、表札やインターホン・表札・門灯・ポスト・宅配ボックスなどの門機能を配した場所を意味します。

道路から玄関に至るまでのアプローチの途中、門扉の有無に関わらず、訪問者を一歩踏みとどまらせる、言わば「関所」のような意味合いです。侵入者にとってもここからが一番自然に出入りできる開口部となるので、ここでの対策は重要です。

門扉

門扉を付ける場合、扉全面が板状になっていて視界も防ぐものから、極力格子が細く少ない開放的なものまで、希望するプライバシー感や用途に合わせて様々な門扉が存在します。
そのハンドルや鍵も簡易的なものから高機能なものまで様々存在します。基本形は手動ですが、その組合わせも様々で防犯に適したものが各メーカーから出ていますので、日常の利便性も含めて選択すると良いでしょう。

防犯を最優先に考えるなら、電子錠の採用が一番効果的と言われています。
今年の最新商品では、家の玄関ドアと外構の門扉を同じ錠で、しかも家族それぞれに合わせた使いやすいもの(スマートフォン、リモコン、カードキー、手動)を使うことができるという画期的なシステムが発表されています。

インターホン

録画機能や様々なモードにより来訪者をちょっとたじろがせる効果があると感じます(私がお客様宅訪問機会が多いので実感)。詐欺や騙り対策には有効です。
インターホンの種類を選ぶのは家の計画時なので、そういった防犯効果のあるものを先に選んでおくことをお勧めいたします。

表札

インターホンとセットで位置決めをすることが多い表札防犯の観点からは番地のみ表記やよく見ないとわからない字体など、必要のある知っている人だけわかればよい、という意味合いで目立ちにくいものを選ぶ方法もあります。
逆に、はっきりとお名前を見せることにより誰の家なのかよくわかり、何か起きた時の対応がしやすい・スムーズになる、という利点もあるので、どちらが地域柄適しているかの判断が必要です。

ポスト

郵便物の盗難は、個人情報流出によるクレジットカード悪用やなりすましなどの犯罪につながる恐れがあります。必ず鍵付きポストを選び、盗難防止を徹底しましょう。
投函口は手や器具が入りにくく、メール便や回覧板が無理なく収まる大きさを選ぶことで、郵便物の飛び出しを防ぎ、確実に情報を守ることができるでしょう。

盗難防止に有効なポスト
宅配ボックス

門扉と同様に電子化が進み、スマートフォン操作やカメラ連動など機能が豊富になっていますが、日常遣いにストレスなく操作が単純なアナログな鍵タイプも根強い人気があります。

門灯

暗くなっても不審者が近づきにくいように、日照感知センサーと消灯タイマー機能をつけるのが主流ですが、照度調整機能と人感センサーを組み合わせる設定が今人気です。

最近はローボルトタイプでLED照明に調光機能が可能なものが出てきたので、電気代をあまり気にせずに防犯のための灯りを計画できるようになりました。

門灯
照度調整機能と人感センサーを組み合わせる ケース

駐車場・駐輪場

屋外にある、車・自転車などの高価な品は狙われやすいので、犯罪から守れるように対策を講じたいところです。

駐車場・駐輪場の防犯対策としては、人感センサー付の照明を設置したり、敷地内に安易に侵入できないようにするゲート類の設置が主ですが、最近はオープンスタイルでの「車両盗難の防止」を主目的とした「自動車の進路を塞ぐ」タイプのリモコン稼働の可倒式ロックシステムも登場しています。

アイシャロック(株式会社英田エンジニアリング
https://aishalock.aida-eng.co.jp/

自宅の駐車場へ設置する、電動式の自動車盗難防止装置。
小型リモコンのスイッチひとつでバリケードが起き上がり、愛車を守ってくれます。

画像提供:株式会社英田エンジニアリング

駐車場・駐輪場の防犯対策

自転車やバイクについては、盗難や転倒防止の観点からの駐輪スタンドが進化しており、固定式から可動式まで用途やデザインで各種選べるようになっています。
車も2輪も収納できる、単体で置いても絵になるようなおしゃれなガレージも商品として出てきており、よりライフスタイルに合わせた遊び心を取り入れつつの防犯、という動きも見られます。

塀・フェンス

前面道路の距離が長い場合、門まわりや駐車場などの開口部を配置した後の、残りの範囲をどのように処理するかは悩みどころです。敷地の方角や立地条件によって一概には言えませんが、手法としては「塀で囲む」「フェンスで囲む」「植栽をする」などの方向性となるでしょう。

まず、何らかの方法で囲う場合、最近の外構計画の防犯セオリーでは「完全に隠さない」ことが基本です。なぜなら、完全に囲ってしまうと、内側で何をされているのかわからず、かえって犯罪を助長してしまうからです。

日本の伝統的な「大和塀」

そのため、高めの塀やフェンスを立てる場合は、部分的に内側を見通せるような工夫をおすすめしています。どうしても見通せるのが嫌だな、と感じられる方には、目線の高さではなく足元だけを透かして気配が感じられるような仕掛けをしたり、日本の伝統的な「大和塀」の手法のように、風通しや気配を感じられつつ目隠しができるような木柵を取り入れるなど、アイデアを駆使します。

また、構造物だけで道路沿いに植栽が入らないと、ファサードとしても非常に寂しく無機質な家の印象になってしまうので、適切な量の植栽も検討したいところ。
四季を感じさせる木々を、門まわりや塀・フェンスの合間を埋めるように自然に配置すれば、ナチュラルなファサードが出来上がります。
透過性のあるフェンスでも、植栽との組み合わせることで適度な囲われ感が生まれますし、かき分ければワサワサと音がすることにより、乗り越えられにくい防犯効果も得られます。

さらに、照明も合わせて、門まわりだけでなくファサード全体を上手にデザインすることで、「うちは外まわりに気を配っています」という暗黙の主張になり、防犯に効果的と言われています。

植栽との組み合わせで囲われ感

一方で、しっかり囲って目隠しをしたい場合は、乗越えにくいタイプのフェンスを検討してみましょう。
従来はブロック塀の上に設置するフェンスに、施工の関係上どうしても8cmほどの隙間が生じ、埋めるために後付けパーツが必要で別途手間と費用がかかってしまっていましたが、最近では本体のみで隙間ができないタイプも登場しています。

形材フェンス シャトレナII 下残すき間小タイプ(三協アルミ
https://alumi.st-grp.co.jp/products/gate/fence_alumi/syatorena2/detail1.html#type

フェンスの下桟すき間は、わずか15mm。道路側からの覗き見を防ぎ、乗り越えを難しくすることで、防犯性を高めます。

画像提供:三協アルミ

敷地の内部

ファサード以外の部分、つまり「敷地の内部=家の外周の土地」を指します。
たとえ侵入者が道路側から敷地内に入ったとしても、できる防犯対策はまだまだあります。

犬走り・バックヤード

犬走りと呼ばれる家のまわりや、人の目につきづらいバックヤードは、基本的な対策をしっかりと考えておきましょう。
音のする砂利、センサー照明、室外機などの足がかりになる台を窓の側に置かない、窓に面格子を取り付ける、入られにくい窓を採用する、死角になりそうな場所に防犯カメラを取り付けるなど。ファサードで防げたとしても、お隣の敷地からの侵入の可能性もゼロではありません。

主庭

リビングルームやダイニング・キッチンと繋がるもう一部屋と捉えて活用したいお庭。
(その詳しい構築方法については別回で触れるとして、ここでは防犯について。)

隣家に対してプラバシーを確保したい部分は目隠しをするとしても、極力全てを覆わずに人の気配を感じられるようにしておくことが大切です。合わせて、適度な照明計画や、乗越えられづらい植物を植えたり、何より草ボーボーにして隠れられる場所を作らないことです。

庭

気にかけていることを現すのが最大の防犯

外まわりで侵入を完璧に防ぐのはなかなか難しいですが、可能な対策は様々あり、それらを重ねることで、より安全性は高まります。

まず、肝心なのは「侵入しやすそうな家だと思わせない」ことです。
手入れ、清掃、明るさなどで小綺麗に保ち、気にかけていることを現すのが最大の防犯になります。

次に、「安易に敷地内に侵入されないようにする」こと。
さらに、侵入されても犯行に時間をかけられる「死角をつくらない」こと。
できるだけ犯行に手間をかけさせて諦めさせ、発見されやすくすることで被害を防ぎます。

これまで紹介したような商品や工夫を組み合わせて、より犯罪に強い家まわりにしていただければと思います。

筆者紹介

連載『家づくりは“外まわり”で決まる ― 外構から考える住まいづくり』

外構の大切さを理解し、心から安心できる住まいを築いてほしい——そんな思いから始まった「日本庭女子会〜にわとわに〜」のコラム。新築計画に役立つ外構の知識やアイデアを、月1回更新でお届けします。

プロフィール

日本庭女子会〜にわとわに〜

エクステリア・ガーデン業界やそれをとりまく業種に従事する・携わる女性たちが、交流や情報交換を目的とし2017年に活動開始。

「庭や外部空間を美しく快適にすることが、住まいや暮らしを豊かに送るのに不可欠なことであり、ひいては日本の街並や景観・環境を美しく創り保ってゆくのに重要な役割を担っている」
また「住まい手だけでなく造り手・働き手の身になって考え、幅広い知識で美しく機能的な空間を造っているプロフェッショナルな女性たちがいることを知ってほしい」

そんな熱き想いを持った庭女子たちが、所属や経験・年齢を超え様々な切り口の委員会を組織し、日本各地で活動・躍動中。現在メンバー150人超。

https://niwatowani.jp/

執筆者

芦川 美香 (あしかわ みか)

横浜市を拠点とするこの道25年超のエクステリア・ガーデンデザイナー。
株式会社アフロとモヒカン代表取締役。

「はじめのいっぽからさいごのちゃくちまで」を社のモットーに、日々お客様宅の外まわりをお客様らしく、美しく暮らしやすく整えるべく、設計・営業・現場に奔走中。

にわとわにプロフェッショナル会員、「美未備びびびっと安心安全委員会」委員長、1級エクステリアプランナー、ブロック塀診断士、E&Gアカデミー講師

https://niwatowani.jp/?itemid=120&catid=12

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