[連載]カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割― カフェの照明計画 最終章 「なんか良かった」を設計する──カフェの照明計画が教えてくれたこと
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目次
カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
最終章 「なんか良かった」を設計する──カフェの照明計画が教えてくれたこと
第1章から第7章まで、カフェの照明計画という一つのテーマを深く掘り下げてきました。
自動調光の仕組み、器具選定の優先順位、3Dシミュレーションによる事前検証、素通り客を捕まえるサイン照明、入店の瞬間に生まれるワクワク感、そして「また来たい」と思わせる空間の設計。これらはすべて、バラバラなトピックのように見えて、一本の糸でつながっています。
その糸とは「光は価値を見つける」という照明の本質です。
カフェという空間は、コーヒーを飲むだけの場所ではありません。時間を過ごす場所であり、感情を動かす場所です。
そして、その感情の多くは、照明によって生み出されます。
「なんか居心地が良い」「また来たい」「友達を連れてきたい」──こうした感情の背景に、必ず光の設計があります。
7つの章を通して浮かび上がった「5つの課題」
7章分の内容を振り返ると、カフェの照明計画において繰り返し登場する課題が見えてきます。これはカフェオーナーにとっても、空間を設計するデザイナーにとっても、共通して意識すべき問題です。
課題① 照明計画が「最後の仕上げ」になっている
多くの現場では、内装デザインがほぼ固まった段階で照明の話が始まります。
しかし、それではタイミング的に遅い。照明は内装の仕上げのひとつの過程ではなく、空間設計の骨格だということを認識してください。素材の選定、家具の配置、ゾーニングの計画と同時進行で、照明計画を始めなければ、最良の光環境は実現できません。
特に「回路設計」は、内装工事が始まる前に決定しなければならない要素です。
どの照明をどのグループにまとめ、時間帯ごとにどう制御するか──これが後回しになると、シーンコントローラーを導入しても十分な効果を発揮できません。
課題② グレアが「施工後」に発覚する
「眩しい」という問題は、竣工後に初めて気づくケースが非常に多い。カタログの数値だけでは、座った客の視線の先に器具が見えるかどうかは分かりません。特に配線ダクトレールのスポットライトは、テーブル面に光を当てることを優先し光の向きを調整します。客が座った状態で眩しさをチェックすることはあまり意識しません。
▲スポットライトは、テーブル面に光を当てることを優先し光の向きを調整する(第3章・前編より)
配線ダクトレールのスポットライトは、テーブル面に光を当てることを優先する
配線ダクトレールの位置がテーブル上部から極端に離れた場合、オプションでハニカムルーバーを装着できる器具を選ぶのも選択のひとつです。
客席の場所だけは完全にグレアレスの器具を選定する方法を取り入れる設計指針を作成しても良いでしょう。
グレアは、どれだけ美しい照明計画でも一瞬で空間が台無しとなる強力なマイナスの力が働きます。
遮光角30°以上の器具選定、座った状態(床上1.2m)での視線シミュレーション──これらを施工前に確認する仕組みが必要です。
課題③ 「明るさ」にしか目が向いていない
照度の数値だけを追っても、良い照明空間は生まれません。
演色性(Ra)、色温度、配光角、反射率、照度設定──これらが組み合わさって初めて、料理が美味しそうに見え、素材の質感が際立ち、空間に奥行きが生まれます。
特に見落とされがちなのが演色性です。
Ra90以上の高演色性光源でなければ、料理の色は本来の魅力を発揮できません。
テーブル面の照度が500ルクスあっても、Ra70の器具では料理は美味しそうに見えません。
空間ゾーニングの明るさ設定も考慮し、全体の光バランスを考えることが望ましい空間設計です。
▲素材の質感表現──色温度がテクスチャを際立たせる(第3章・前編より)
課題④ 業態の戦略と照明が連動していない
低単価・高回転型と高単価・低回転型では、照明の設計思想がまったく異なります。
にもかかわらず、「カフェらしい雰囲気」という曖昧な基準で照明が決められることが多い。しかも意匠器具で明るさを確保する設計が多い傾向にあります。
意匠照明はあくまで空間に必要なアクセントとし、必要照度はダウンライトやスポットライトなどのテクニカル照明を併用すると良いでしょう。
照明は経営戦略のツールです。
回転率を上げたいのか、客単価を高めたいのか。
この答えが先にあって、照度、色温度、シーン設定が決まります。
第2章で解説したBGMとの連動も含め、照明は「売上に直結する設備」として位置づけるべきです。
ここは非常に大事なテーマと位置付けます。
内装デザインや素材選定に目が行きがちですが、その時に、素材を演出するにはどんな光を作ると良いかを考える時間を是非作ってください。
ここで考えることが先に進む上で方向性を変える大きな要因になります。
特に高価格低回転率の客層を目指す店舗設計の場合、仕上げ材や家具の選定と同じ若しくはそれ以上の意識で光と向き合うことを推奨します。
▲低価格・高回転型(左)と高価格・低回転型のカフェのイメージ(第2章・前編より)
課題⑤ オーナーとのイメージ共有が「言葉」に頼っている
「温かみのある光で」「落ち着いた雰囲気で」──この言葉を、設計者とオーナーが同じイメージで共有できているケースは少ない。竣工後の「思っていたのと違う」は、ここから生まれます。
完成した空間を「先に見せる」ことが、この問題の根本的な解決策です
今すぐ取り組むべきこと──枝葉も含めた実践リスト
7章の内容を踏まえ、カフェオーナーと空間デザイナーがすぐに実践できることをまとめると次のようになります。
設計プロセスの改革
・照明計画を設計の初期段階(平面プランと同時)に始める
・ゾーニング計画と回路設計を同時に考え、後回しにしない
・シーンコントローラースイッチを標準採用として予算に組み込む
器具選定の基準づくり
・食材・料理を照らすエリアはRa90以上を必須条件にする
・遮光角30°以上の器具を客席エリアの標準仕様にする(グレア対策)
・色温度は素材ごとに使い分ける(木材:2700〜3000K、タイル:3500〜4000K)
見落としがちな「枝葉」の確認
・ペンダント照明の吊り下げ高さ(テーブル面から70〜80cm)
・配線ダクトレールの上の器具の向きと角度(座った状態での視線確認)
・西日対策(ブラインド・庇との連動)
▲日中─外光が店内に与える影響を検証する(第4章・後編より)
オーナーとの合意形成
・昼間の自然光環境と、夕暮れ以降の照明環境を分けてプレゼンする
・静止画(複数アングル)と動画(時間変化)の2種類で提示する
・照度分布図は言葉の可視化のツールで使うにとどめ、数字が絶対ではないことを認識する。
3DソフトとAI──照明設計の「民主化」が始まっている
全7章を通して繰り返し登場したのが、3Dシミュレーションの活用です。ここで、照明設計の現在地と、近未来の話をしたいと思います。
3Dシミュレーションは、照明計画における「カタログでは見えない空間の真実」を可視化するツールです。壁面の反射率、配光角と天井高の関係、視点を変えたときのグレアの発生──これらは、平面図だけでは永遠に見えません。3D空間上で検証することで初めて、施工前に問題を発見し、修正できます。
▲画像:6章後編より
そして今、この3Dシミュレーションの世界に、AIが急速に融合し始めています。
これまで照明シミュレーションには、専門知識と多くの時間が必要でした。
IESデータの読み込み、反射率の設定、複数シーンのレンダリング──熟練した設計者でなければ、精度の高い検証は難しかった。
しかしAIの活用により、「この素材にはこの色温度が適している」「この配置ではグレアが発生する可能性がある」といった判断を、より短時間で、より高い精度で行えるようになりつつあります。
3Dソフトが「見せる力」を与え、AIが「判断する力」を補完する。この組み合わせが、照明設計をより多くの設計者が使いこなせる道具へと変えていきます。
「照明の専門家でなければプロの照明計画はできない」という壁が、確実に低くなっています。
「照明プランナーとの協働」というブルーオーシャン
3Dソフトを活用しながら、照明設計の専門家と協働する。
このビジネスモデルを実践している工務店やインテリアコーディネーターは、まだ圧倒的に少ない。
「電気は電気屋さんに任せる」という従来の分業体制を超え、空間の設計段階から照明プランナーを巻き込む。この発想の転換が、空間提案の質を別次元に引き上げます。
オーナーにとっては「光のことまで考えてくれる設計者」という信頼になり、単なるコスト競争から抜け出すことに繋がります。
そして、その協働の「共通言語」となるのが、3Dシミュレーションです。
照明プランナーのアイデアを、3D空間で可視化し、オーナーに体感させる。
この三者の連携が、カフェの空間設計に新しい価値をもたらします。
光が、空間の価値を決める時代へ
「なんか良かった」
この言葉は、照明設計の最高の評価です。
客が照明に気づかないとき、照明は最もよく機能しています。グレアがなく、料理が美しくおいしそうに見え、気づかないうちに時間が流れ、シーンが変わり、「また来たい」という感情が残る──この連鎖を設計することが、カフェの照明計画の本質です。
光は価値を見つける。
そして、3Dという道具を手にした設計者が、その価値をより確かに、より早く、オーナーと共有できる時代が来ています。
本連載が、カフェの空間づくりに携わるすべての方にとって、「照明を設計する」という新しい視点の入り口になれば幸いです。
本連載は今回が最終回です。ここまでご購読いただきありがとうございました。
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







