カフェの照明計画 第3章 照明器具の選定と配置を3Dで検証する方法(後編)
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カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
第3章 照明器具の選定と配置を3Dで検証する方法(後編)
失敗しない器具選定の鉄則:3つの「優先順位」(つづき)
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第三優先:器具の仕様──配光角・光束・グレア対策
前編で「光の目的」と「素材×色温度」を明確にしました。最後に重要なのが、器具の技術的な仕様です。同じ光束、同じ色温度でも、器具の配光角や調光によって、空間の見え方は大きく変わります。これが目的の完成度を飛躍的に向上するカギとなります。
配光角が生み出す光の表情
配光角とは、光が広がる角度のことです。主に4つのタイプに分類されます。
狭角(10~20°):壁面に掛けた小さなアート作品、凛とした佇まいの一輪挿しなど、「ここを見てほしい」という場所に使います。周囲とのコントラストが強く、ドラマチックな演出が可能です。光が集中するため、照射範囲は狭いものの、高い照度を確保できます。
中角(25~30°):テーブル面やレジまわりを照らすのに適しています。手元の作業に必要な明るさを確保しつつ、周囲への光の広がりを抑えます。カフェ照明の中で最も汎用性が高い配光です。
広角(50~60°):より広範囲で限定的な場所に使います。オプションの「ディフュージョンレンズ」を使用できる器具であれば照射範囲を変えることも可能です。複数のテーブルをカバーする必要がある場合や、やや広めのエリアを均一に照らしたい場合に有効です。
拡散(60°以上):基準照明(ベース照明)としての役割を担います。店内の基本となる明るさ、基本となる色温度を決める役割です。テクニカル照明で強弱をつける前提として、この拡散照明で空間全体の「下地」をつくります。
光の広がる角度=配光角の4つのタイプ
配光角選定で失敗しないために
配光角の選定を誤ると、思わぬ問題が発生します。
「テーブル照明に広角のダウンライトを選んだら、隣のテーブルまで明るくなってしまい、空間にメリハリがなくなった」「中角で統一したつもりが、テーブルが動くレイアウトでは暗い席ができてしまった」──こうした失敗は、配光角の特性を理解していないために起こります。
特に重要なのが、客席テーブルの位置が固定か可動かです。
テーブルが固定配置であれば、中角(25~30°)のダウンライトを各テーブルの真上に配置することで、理想的な照度分布が得られます。しかし、可動式レイアウトの場合、テーブルの位置が変わるたびに照明の当たり方が変わってしまいます。この場合は、広角でやや光束値の高い器具を選ぶか配灯数を多くするなどで対応します。
器具メーカーのカタログには配光角が記載されていますが、実際の空間で「どの範囲が、どのくらいの明るさで照らされるか」は、天井高、内装の反射率、隣接する器具との関係によって大きく変わります。平面図上で配光角25°の円を描いても、それは机上の計算に過ぎません。
同じ照明器具でも設置高さ(天井の高さ)によって範囲と明るさが異なる
壁面照明が視線の動きをコントロールする
壁面デザインは店内の雰囲気に直結しますが、それ以上に重要なのが「視線誘導」の役割です。
メニューボードや訴求案内、アート作品を壁面に配置する場合、光の強弱や照射範囲によって、客の視線の動きに大きく影響を与えます。
例えば、カウンター背面の壁にデザートメニューを掲示する場合、狭角~中角のスポットライトで集中的に照らすことで、客の視線はそこに誘導されます。また、奥の壁面にアート作品を配置し、そこに集中光を当てることで、店内に奥行きの広さを感じさせる「サバンナ効果」が生まれます。人の視線は明るい場所へと自然に向かうため、この手法は空間を広く見せる効果も持ちます。
【サバンナ効果】人は明るい場所を安心な場所ととらえ、自然に向かう。店内を明るく見せることで客を誘う効果が生まれる。
※この画像は3Dアーキデザイナーで作成し、ArchiXで加工しています。
器具光束(ルーメン)と照度の関係
器具光束とは、照明器具が発する光の総量を示す単位で、ルーメン(lm)で表されます。同じ配光角でも、光束が大きければ明るく、小さければ控えめな光となります。
例えば、テーブル面に500ルクスの照度を確保したい場合、器具の光束、配光角、天井高の3つの要素を計算して器具を選定します。天井高が2.7mのカフェであれば、中角配光で1000~1500ルーメン程度の器具が目安となります。
ただし、これはあくまで理論値です。内装の色(反射率)によって、実際の照度は大きく変わります。白い天井や壁は光を反射し、空間全体の明るさを底上げしますが、ダークトーンの内装では光が吸収され、同じ器具でも暗く感じます。
白い漆喰壁の場合、反射率は70~80%。木材は30~40%、レンガは20~30%程度です。この差が、空間の明るさに直接影響します。だからこそ、内装素材を考慮した照明計画が必要なのです。
カフェでの効果的なグレア対策
グレア(眩しさ)は、どれだけ美しい照明計画でも、一瞬で台無しにしてしまいます。
遮光角の確保:ダウンライトやスポットライトには「遮光角」という概念があります。これは、光源が直接見えない角度のことです。遮光角が30°以上あれば、通常の視線では光源が見えず、グレアが発生しにくくなります。器具選定の際は、カタログで遮光角を必ず確認しましょう。
配光制御型器具の活用:最近のLED器具には、光源を奥まった位置に配置し、レンズと反射板の併用で配光をコントロールするタイプが増えています。こうした器具は、高い照度を確保しながらグレアを抑えられます。
配置の工夫:客席から視線の先に器具が来ないよう配置を検討します。特に配線ダクトレールを使う場合は、器具の向きと角度を慎重に調整する必要があります。カフェでは、客が座った状態での視線の高さ(床上約1.2m)を基準に、光源が直接見えない配置を心がけましょう。
配線ダクトレールの照明設計では、商品演出を優先するあまり、客の眩しさを考えない(気が付かない)事例がそこら中に散見されます。器具の配置場所、配光特性、これらを考慮した照明器具の選定──こうした要素を適切にコントロールすることで、グレアは防げます。
内装デザインをグレードアップする照明の考え方
照明計画は、内装デザインのコンセプトと一体で考えることで、その効果が最大化されます。ここでは、カフェの代表的なデザインスタイルごとに、照明選択の考え方を解説します。
コンセプト、イメージカラーに合わせた照明選択
ナチュラル系カフェ(木材×温かい光)
無垢材のテーブルやカウンター、漆喰の壁──自然素材を活かしたナチュラル系カフェでは、2700~3000ケルビンの温かみのある光が基本です。木目を際立たせ、空間全体に柔らかさをもたらします。
照明器具は、ペンダント照明で視覚的なアクセントをつくりつつ、ダウンライトやスポットライトで必要な照度を確保します。間接照明を天井や壁面に配置することで、柔らかな光の広がりを演出できます。
※この画像は3Dアーキデザイナーで作成し、ArchiXで加工しています。
モダン系カフェ(モノトーン×クールな光)
白と黒を基調としたモダン系カフェでは、3500~4000ケルビンのやや高めの色温度が、洗練された都会的な雰囲気を演出します。タイルやコンクリートといった素材の質感を引き出し、シャープでクリーンな印象を与えます。
照明器具は、ダウンライトを中心に構成し、スポットライトでアクセントをつくります。ライン状のLED照明を天井や壁面に埋め込むことで、空間に直線的なリズムが生まれ、モダンな印象が強調されます。
ただし、高色温度で照度を落とすと空間が一気に陰気に振れてしまうため、注意深く、ほど良い明るさに調整してください。
※この画像は3Dアーキデザイナーで作成し、ArchiXで加工しています。
ヴィンテージ系カフェ(レンガ×エジソンバルブ風)
レンガ壁やアイアン素材を使ったヴィンテージ系カフェでは、2400~2700ケルビンで温かく演出します。
ただし、装飾照明だけでは照度が不足するため、ベース照明で必要な明るさを補います。レンガ壁を照らすウォールウォッシャー照明やコーニス照明を取り入れることで、素材の質感が際立ち、素材の演出に繋がります。
※この画像は3Dアーキデザイナーで作成し、ArchiXで加工しています。
インテリアデザインに合わせた光の関係
家具配置と照明配置の連動
天高とテーブル面に対する照射範囲の関係は、照明計画の基本です。テーブルは料理を演出する一番大事な場所。明暗の差が出ない配灯数と配光角度を検討します。
カウンター席では、カウンター面から30~50cm前方に照明器具を配灯することで、顔に影ができず、かつ手元が明るい理想的な配置となります。ペンダント照明を使う場合は、テーブル面から70~80cmの高さに吊り下げることで、眩しさを抑えつつ、適切な照度を確保できます。
空間のゾーニングと光の強弱
第2章で解説した「業態による運営方針の違い」を踏まえ、カフェ内をゾーニングし、エリアごとに光の強弱をつけます。
エントランスは明るく(500~700ルクス)、カウンターはやや明るく(400~600ルクス)、客席は落ち着いた明るさ(200~400ルクス)、奥のソファ席は最も暗く(150~300ルクス)──このように段階的に明るさを変えることで、空間に奥行きと変化が生まれます。
次章予告
次回は、ここまで解説してきた器具仕様や内装デザインの知識を踏まえ、3Dシミュレーションでの実践的な検証方法を解説します。「カタログだけでは判断できない空間の真実」を、どのように可視化し、施主と共有するか。その具体的なステップをお伝えします。
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







