[連載]家づくりは「外まわり」で決まる―外構から考える住まいづくり 庭のテイスト設計と植栽の考え方―庭づくり【応用編】
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マイホームデザイナープラスをご覧のみなさま、こんにちは。
毎月1回「日本庭女子会~にわとわに~」のメンバーが、“家まわり”にまつわる情報をお届けしているコラム。今回で第8章となります。
今回は、庭づくりにおけるテイスト設計と植栽の考え方について「エクステリア&ガーデン設計事務所 アトリエナナ」の小林裕子が担当いたします。
庭づくりの出発点は「ブリーフ」と「表情設計」
前回は、お庭の必要性や、庭づくりを進める基本的な流れについてご紹介がありました。
理想の暮らしを思い描き、緑のある生活の価値を共有しながら、敷地条件を整理し、コンセプトを定めていく。こうした一つひとつの想いや条件を丁寧に整理し、まとめていくことで、はじめて庭づくりの方向性が見えてきます。
ここで大切なのは、クライアントブリーフ*は「答え」ではなく、あくまで「出発点」だということです。
この土台がしっかりしているほど、コンセプトやデザインに一貫性が生まれ、ぶれのない空間へとつながっていきます。
また、つくり手にとっても、判断に迷ったときに立ち返ることのできる指針となり、結果として無駄なやり直しを減らすことにもつながります。
ヒアリングで交わされる言葉や想いを、単なる情報として流してしまうのではなく、きちんと整理し、共有できる形にすること。そうしたプロセスを経て、庭づくりの土台が整っていきます。
*)クライアントブリーフとは…
プロジェクトの目標、目的、範囲、成果物などの重要な詳細を概要でまとめたもの
庭の印象を決める「表情」という視点
その上で、もう一歩深めて考えたいのが「表情」という視点です。
ここでいう表情とは、庭全体がまとっている雰囲気や空気感のこと。
ナチュラルでやさしい印象なのか、すっきりとしたモダンな佇まいなのか。
同じ構成であっても、素材や植物、色の重なり方によって、庭の印象は大きく変わります。
「なんだか心地よい」と感じる庭には、必ずこの“表情”が整っています。
そしてその表情は、一つの要素でつくられるものではなく、いくつもの選択の積み重ねによって、少しずつにじみ出てくるものでもあります。だからこそ、はじめに方向性を整えておくことがとても大切です。
その軸となるのが、表情=テイストです。
ここでは、「失敗しにくい空間づくり」についてお話しします。
テイストを先に決めることが空間の完成度を左右する
庭づくりにおいて、テイストを決めることは、単に好みを選ぶことではなく、空間づくりの指針を持つことでもあります。
テイストとは、庭の雰囲気やデザインの方向性を示すもの。
空間全体の印象をかたちづくる“軸”のような存在です。
庭は、石材や木材、フェンス、照明、ガーデンファニチャー、そして植物など、さまざまな要素の組み合わせで成り立っています。それぞれに魅力があるからこそ、方向性が曖昧なまま選んでしまうと、どこかまとまりのない印象になってしまうこともあります。
その原因の多くは、「テイストの軸」が曖昧なことにあります。
最初にコンセプトとともにテイストを定めておくことで、「この庭に合っているかどうか」という判断がしやすくなり、自然と統一感のある空間へと整っていきます。
また、テイストは施主様やご家族とのイメージ共有にも役立ちます。
言葉だけでは伝わりにくい感覚も、方向性があることで共有しやすくなります。
テイストを決めることは制限ではなく、その庭らしさを引き出すための“よりどころ”のようなものだと感じています。
庭とインテリアの関係性から考えるテイスト設計
庭のテイストは、インテリアと同じように考えるとイメージしやすくなります。
室内では、ナチュラルやモダン、クラシックといった方向性を決めてから家具や素材を選んでいくことで、空間全体にまとまりが生まれますが、庭づくりも同じように、テイストを意識することで、外の空間にも一貫した心地よさが生まれていきます。
例えば近年よく耳にする「ジャパンディ」というスタイル。
日本の和の美意識と北欧のシンプルなデザインを融合させた、落ち着きと温かみのある空間です。
庭でこの雰囲気をつくる場合は、自然素材の質感を活かした木材や石材を選び、色味はベージュやグレー、やわらかなブラウンなどでまとめていきます。強いコントラストは控えめにし、素材そのものの風合いを感じられる組み合わせにしていくと、穏やかな空気感が生まれます。
植栽も同様に、グリーンを基調とした落ち着いた構成にすると、空間になじみやすくなります。
室内外の連続性が心地よさを生む
庭は屋外でありながら、室内とつながる存在でもあります。
部屋からふと外を見たとき、その景色が自然とインテリアと調和していると、暮らしの心地よさはぐっと深まります。
例えば和室の窓の先に広がる景色。
ヤシの木が見えるよりも、やわらかく揺れるモミジの枝葉が見えるほうが、空間にすっとなじみ、静かな落ち着きを感じられるのではないでしょうか。
テイストによる植物選びのポイント
植物選びも、庭の印象を大きく左右する要素です。
だからこそ、「どんなテイストにしたいか」という視点を持つことがとても大切になります。
ここでは、テイストごとに意識したい植物選びのポイントを整理してみましょう。
ロマンチックナチュラル
オベリスクと生垣を背景に、ふんわりとした花々とグラスが揺れる、やわらかなスタイル。
『最新版 美しく咲かせる バラ栽培の教科書』**より(以下同)
・淡いピンクや白などの花色を中心にすると、世界観がまとまりやすくなります
・隣り合う植物は、葉の形や色の違いでやわらかなコントラストが生まれます
・整えすぎない自然な樹形の植物がよくなじみます
・背景は生垣やフェンスなどで整えることで、他の植物を引き立てます
やわらかなトーンでまとめ、植物の重なりや曲線的な流れを意識して構成することで、やさしく可憐な表情になります。
オーガニックモダン
直線的な構造物と自然な樹形ややわらかな植物を取り入れながら、すっきりとした構成でまとめる、ナチュラルさと洗練をあわせ持つスタイル。
・自然な樹形の樹木や低木がなじみやすいです
・白やグリーンを基調とした、彩度を抑えた色合いがよく合います
・線の細い草姿や、すっと立ち上がる植物を組み合わせることで、軽やかさと抜け感が生まれます
・葉の大きいグリーンなどを足元に配置することで、全体が整った印象になります
色数を抑え、自然な形と余白を意識して構成することで、ナチュラルでありながら洗練された表情になります。
フォーマルエレガンス
シンメトリーな配置とアイアンフェンスによって構成される、格調と安定感のあるスタイル。
・直立性のあるコニファーなど、空間に高さと軸をつくる植物が似合います
・刈り込みで形を整えられる低木もなじみやすいです
・象徴性のある、存在感の明確な植物が主役に向いています
・常緑をベースにすることで、空間の安定感と統一感が保たれます
形が整う植物と常緑を基調に構成することで、秩序のあるフォーマルで上品な表情になります。
ナチュラルシック
石積みの塀や自然素材を背景に、落ち着いた色合いでまとめる、やわらかさと上品さをあわせもつスタイル。
・くすみのある花色もなじみやすいです
・銅葉など赤みを含むカラーリーフも相性がよく、空間に深みを与えます
・自然な樹形の低木や、軽やかな草姿の草花を組み合わせることで、やわらかな動きが生まれます
・足元にグリーンや小花を重ねて密度をつくることで、落ち着きのあるまとまりが生まれます
色味や質感のトーンを揃え、自然な重なりを意識して構成することで、やわらかさの中に品のあるナチュラルシックな表情になります。
また、こうしたテイストの好みを知る第一歩としては、庭に限らず、ショップやカフェ、建築やインテリア雑誌などから気になる写真を集めて見直してみるのもおすすめです。
自分が心地よいと感じる色や素材、雰囲気の共通点を見つけることで、空間づくりの方向性がより明確になっていきます。
まとめ
お施主様の想いをもとに、設計者が整理してまとめていくクライアントブリーフは、「なぜこの庭をつくるのか」を共有し、関係者全員が同じ方向を向いて進むための“地図”のようなものです。
庭づくりでは、テイストを決めること、空間の役割を整理すること、植物のバランスを意識すること。
こうしたポイントを押さえることで、庭の完成度は大きく変わってきます。
ただし、庭は完成した瞬間がゴールではありません。
植物が育ち、季節が巡る中で、暮らしとともに少しずつ表情を変えていきます。
時間とともに風景が育ち、その家ならではの庭になっていく。
そんな変化を楽しめることこそが、庭のいちばんの魅力なのかもしれません。
理想の庭とは、特別なものではなく、暮らしの中で自然と心地よく寄り添ってくれる場所です。
また、これからの庭づくりには、カーボンニュートラルな視点も大切です。
庭の植物は日々少しずつ空気中のCO₂を取り込みながら、目には見えないかたちで環境を支えています。
住まいに緑を添えることは、やさしい循環を生み出すことにもつながります。
これから庭づくりを考える方にとって、
その第一歩のヒントとなればうれしく思います。
筆者紹介
連載『家づくりは“外まわり”で決まる ― 外構から考える住まいづくり』
外構の大切さを理解し、心から安心できる住まいを築いてほしい——そんな思いから始まった「日本庭女子会〜にわとわに〜」のコラム。新築計画に役立つ外構の知識やアイデアを、月1回更新でお届けします。
プロフィール
日本庭女子会〜にわとわに〜
エクステリア・ガーデン業界やそれをとりまく業種に従事する・携わる女性たちが、交流や情報交換を目的とし2017年に活動開始。
「庭や外部空間を美しく快適にすることが、住まいや暮らしを豊かに送るのに不可欠なことであり、ひいては日本の街並や景観・環境を美しく創り保ってゆくのに重要な役割を担っている」
また「住まい手だけでなく造り手・働き手の身になって考え、幅広い知識で美しく機能的な空間を造っているプロフェッショナルな女性たちがいることを知ってほしい」
そんな熱き想いを持った庭女子たちが、所属や経験・年齢を超え様々な切り口の委員会を組織し、日本各地で活動・躍動中。現在メンバー150人超。
https://niwatowani.jp/執筆者
小林 裕子(こばやし ひろこ)
植物と心地よく暮らす庭づくりを提案するガーデンデザイナー。
「エクステリア&ガーデン設計事務所 アトリエ ナナ」代表。
環境の変化もふまえ、手入れを頑張りすぎなくても心地よく続けられる庭づくりを大切にしている。植物の個性や自然な姿を生かした、暮らしに寄り添うガーデンデザインを提案。
第18回 国際バラとガーデニングショウ ガーデンコンテスト大賞受賞。
一級エクステリアプランナー、ブロック塀診断士。E&Gアカデミー講師。
日本庭女子会 にわとわに プロフェッショナル会員
「にわとわに」のロゴデザイン担当。
名前とデザインには、過去・現在・未来へとつながる庭づくりを通して、
人と人、人と緑のつながりが広がっていく会でありたい、という思いを込めています。
**)『最新版 美しく咲かせる バラ栽培の教科書』(西東社)より
本記事内「テイストによる植物選びのポイント」に掲載の、ロマンチックナチュラル、オーガニックモダン、フォーマルエレガンス、ナチュラルシックの各イラストは、同書籍にバラの花色から連想する空間のイメージとして掲載されているもので、本記事へご提供いただきました。







