[連載]カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割― カフェの照明計画 第7章 また来たくなる店内演出と内装素材の最適な組み合わせ(前編)
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カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
第7章 また来たくなる店内演出と内装素材の最適な組み合わせ(前編)
「なんか良かった」を生み出す見えない設計
カフェを出た後、ここに連れてきてくれた友人に「私のお気に入りの店、どうだった?」と聞かれて、
「なんか良かった」としか言えなかった私。でも、また来たいと思った。
この感覚こそが、また来たくなる店の本質です。
何が良かったのか、具体的には説明できない。でも、心地よかった。居心地が良かった。時間があっという間に過ぎた──。
この「なんか良かった」は、決して偶然ではありません。
それは、内装素材、照明(光源の眩しさ、色温度、照度)、スイッチ回路(ゾーニング)、そしてシーン設定、これらすべてが噛み合い、店員の接客サービスが伴って完成する、緻密な設計の結果なのです。
また来たくなる店の定義
また来たくなる店には、共通点があります。
それは「ストレスがない」ということです。
眩しくない。
暗すぎない。
騒がしくない。
寒くない。
暑くない。
椅子が硬すぎない。
テーブルが狭くない。
料理が美味しそうに見える。
店員が心地よい距離感を保っている──。
こうした「ストレスがない状態」は、一つひとつは些細なことです。しかし、これらが積み重なると、「なんか良かった」という感覚になります。逆に、どれか一つでも欠けると、「何かが違う」という違和感になります。
照明設計は、このストレスゼロを実現するための、重要な要素の一つですが、視覚的な要素に絡むためもっとも重要な要素と言っても過言ではありません。
意識されない完璧さ
優れた照明設計は、意識されません。
客は「照明が良い」とは思わず、ただ「居心地が良い」と感じます。
例えば、テーブル面が適度に明るく、料理が美味しそうに見える。
でも、照明器具が直接目に入って眩しいことはない。
顔に変な影ができることもない。
手元の本やスマホの画面が見やすい。
窓際の席は自然光が心地よく、奥の席は落ち着いた雰囲気がある。
これらすべてが「当たり前」のように機能しているとき、客は照明について何も考えません。
ただ、「なんか良い店だな」と感じます。
この「意識されない完璧さ」こそが、また来たくなる店の秘密です。
意識されない完璧さ
「気に入った」は理屈ではなく体験
人は理屈で店を気に入るわけではありません。体験として、心地よさを感じます。
「色温度が3000ケルビンで、照度が400ルクスで──」という説明を聞いても、客は何も感じません。
でも、その空間に身を置いたとき、「ここ、落ち着くな」と感じます。
木のテーブルに温かい光が当たり、壁面の質感が柔らかく浮かび上がり、適度な明暗のメリハリがある──。この体験が、「気に入った」という感情を生むのです。
照明設計の目標は、数値を達成することではありません。客に「なんか良かった」と感じてもらうことです。
低価格高回転型と高単価低回転型の設計思想
カフェには大きく分けて2つの戦略があります。
サラリーマンの休憩場所、短時間でちょっと打ち合わせの場所の低価格高回転型と、生活する上で必要とされる第三の居場所、サードプレイス的な場所の高単価低回転型です。
この2つでは、内装素材と照明の設計思想がまったく異なります。
〈低価格高回転型〉──「早く出たくなる」を心地よく
低価格高回転型の店は、回転率を上げることが収益の鍵です。つまり、「長居させない」ことが重要です。しかし、これは「居心地を悪くする」という意味ではありません。「満足したら自然と席を立ちたくなる」空間をつくるのです。
内装素材の選定:
コストを抑えつつ、清潔感と活気を演出します。
白やグレーを基調とした明るい色調、掃除しやすいタイルや樹脂素材、硬めの椅子──。これらは、快適でありながら、長時間の滞在を促さない要素です。
照明の設計:
明るく(700ルクス以上)、色温度もやや高め(3500ケルビン)に設定します。
朝の自然光のような爽やかで活動的な明るさです。この明るさは、食事を美味しく見せながら、「ゆっくりくつろぐ」よりも「さっと食べて次の予定へ」という気分を促します。
シーン設定:
時間帯による大きな変化は控えめに。
終日、一定の明るさと活気を保ちます。壁面には装飾の絵画よりも、期間限定や季節に合わせたおススメのメニューをやや強い光で協調することでプラス一品を促す効果に光を上手に活用しても良いでしょう。
スポットライトやユニバーサルダウンライトで配光角度は中角。色温度や光束値は店舗の条件に合わせて設定します。
〈高単価低回転型〉──「ずっといたい」を演出する
高単価低回転型の店は、滞在時間を延ばし、客単価を上げることが重要です。「もう少しここにいたい」「もう一杯頼もうかな」と思わせる空間をつくります。
内装素材の選定:
質感と温かみを重視します。多少重みのある色合いの素材選定が良いでしょう。無垢材のテーブル、本革のソファ、漆喰の壁、観葉植物──。触り心地が良く、目にも優しい素材です。コストはかかりますが、その分、高単価を正当化できます。
照明の設計:
控えめの明るさを想定しますが、ここで重要なのは濃い色の内装材は光を吸収します。同じ照度でも暗く感じます。この時に重要なのは「明るさ感」です。明るく感じる工夫が必要。全体の内装色はダーク系でも、壁面の演出する素材だけをライト系にしそこに光を当てこむ。そうすることで、空間全体の印象は変えることなく明るさ感を確保することが出来ます。色温度は低め(2700~3000ケルビン)が良いでしょう。夕暮れ時の温かな光のような、落ち着いた雰囲気です。この暗さは、時間を忘れさせ、リラックスを促します。
シーン設定:
時間帯による変化を明確に。朝は明るく爽やかに、昼は自然光を活かし、夕方以降は徐々に照明を落とし、ムーディーな大人の空間へ。この変化が、「いつ来ても違う顔を見せる店」という印象を与えます。このシーンを作るうえで重要な要素が回路設計です。
分ける回路と合わせる回路を考えこれが時間別シーン別に光のバランスを整える要素になります。
「ちょうど良い」のバランス
低価格高回転型と高単価低回転型、どちらが正解ということではありません。
重要なのは、店のコンセプトと戦略に合わせて、内装素材と照明を「ちょうど良く」光バランスを完成させることです。
例えば、低価格型なのに照明が暗すぎると、「なんか暗くて落ち着かない」と感じられます。
逆に、高単価型なのに照明が明るすぎると、「高級感がない」「せかされている気がする」と感じられます。
この「ちょうど良さ」は、数値だけでは決まりません。
内装素材、家具、空間の広さ、客層、立地──すべての要素が絡み合って、初めて「ちょうど良い」が生まれます。
内装素材と照明の「調和」
内装素材と照明の関係は、料理の味付けに似ています。
素材が良くても、調味料のバランスが悪ければ美味しくない。
逆に、素材が普通でも、調味料のバランスが良ければ美味しく感じる。
照明は、内装素材を最高に見せるための「調味料」なのです。光の味付けを是非意識してください。
素材の質感を殺す照明、活かす照明とは、同じ素材でも、照明の当て方次第で、質感は大きく変わります。
正面から均一に照らす:
素材全体が明るくなりますが、凹凸が見えず、平面的で退屈な印象になります。素材の質感が活かされません。
斜めから照らす:
素材の凹凸に陰影が生まれ、質感が際立ちます。木目、レンガの凹凸、漆喰の表情──これらが美しく活かされます。
素材の質感を活かすには、光の角度も重要です。狭角と広角では光のメリハリ度が大きく変わります。
光でリズムを作るには狭角配光で配灯ピッチを調整する設計が良いでしょう。壁面を照らす場合は、壁から10~30cm程度の距離に器具を配置し、斜めから光を当てましょう。
凹凸のある壁に光で立体感を作る
<次章予告>
後編では、記憶に残る「違和感のなさ」、シーン設定が生む「時間の移ろい」、そして店員の接客と照明の連動について解説します。
「また来たい」を生む記憶の残し方まで、具体的にお伝えします。 後編へ>
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







