[連載]カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割― カフェの照明計画 第5章 素通り客を捕まえるサイン照明計画(前編)
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目次
カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
第5章 素通り客を捕まえるサイン照明計画(前編)
素通り客を捕まえる──個人カフェの生命線
カフェ経営において、最初の課題は「いかに通行人を店内に引き込むか」です。
どれだけ素晴らしいコーヒーや料理を提供しても、入店してもらえなければ意味がありません。大手チェーンは、ブランドの認知度があります。遠くから緑色の丸いマークが見えれば、「カフェだ」と認識され、自然と足が向きます。
しかし、個人カフェにはその認知度がありません。
個人カフェが戦うべきは「ブランド力」ではなく、「ここがカフェである」ことを瞬時に伝え、「入ってみたい」と思わせる力です。
そして、その力を最も効果的に発揮するのが、サインと店構えの連動です。
日没後の時間帯の営業には、サイン照明が素通り客を引き込む要因に直結する、とても大切な役割を担います。個人カフェのサイン照明計画は、入店を促す最初の重要なミッションです。
とはいえ、日中の時間帯の方が営業時間が長いため、外光での見え方にも工夫が施されたデザインが求められます。
個人カフェのサイン照明──「ロゴ」より「業態」を伝える
大手チェーンのサイン戦略は、ロゴの認知度を最大限に活かすことです。緑の丸いマーク、黄色のMマーク──それだけで、何の店かが分かります。
しかし、個人カフェは違います。店名のロゴをどれだけ目立たせても、初めて見る人には「何の店か」が伝わりません。だからこそ、個人カフェのサインは「ロゴ」よりも「業態」を明確に伝える必要があります。
光の広がりと重なり
複数のダウンライトを配置したとき、それぞれの配光がどう重なり合い、床面や壁面にどんな光のパターンをつくるか。平面図上では円を描くだけですが、実際には光は立体的に広がり、複雑に干渉し合います。
中角25°のダウンライトを1.5m間隔で配置した場合、天井高2.7mであれば、床面では光が重なり合います。しかし、天井高が3.5mになれば、光は届かず暗い部分が生まれます。この「立体的な光の広がり」は、平面図だけではなかなか判断するのは難しいでしょう。
「CAFE」「COFFEE」の文字が持つ力
最もシンプルで効果的なのが、「CAFE」や「COFFEE」という文字を明確に見せることです。通行人は、この文字を見た瞬間に「ここはカフェだ」と理解します。
店名が英語であれば、その周辺に「CAFE」と添える。店名が日本語であれば、「珈琲」や「喫茶」という文字を併記する。この「業態を示す文字」に、適切な照明を仕込むことが、個人カフェのサイン照明の基本で、むしろ店名より業態を目立たせる方が良いのです。
店名の近くに「coffee」と添えるだけで前を通る人たちにここがカフェであることが伝わる
サイン文字の照明手法
〈内照式サイン〉★推奨
文字の内側から光を出す方式。
輝度を確保できるので、日中も営業状態を伝えることができるうえ、夜間でも文字がくっきりと浮かび上がり、視認性が高くなります。
特に色温度は、サインの背景色や文字色に合わせて選びます。
白文字であれば2700~3000ケルビンで温かみを、青系のデザインであれば4000ケルビン以上でクールな印象を演出できます。複数の色温度やカラー照明も取り入れて実験しても良いでしょう。
イメージを具現化し、設計者は施主と共有することで失敗を防ぐことができます。
ここは「プロに任せてあるから大丈夫」ではなく、関係者自らがチェックできる仕組みを作ることを推奨します。
〈外照式サイン〉
文字の外側からスポットライトを当てる方式。
立体的な文字であれば、影ができて奥行きが生まれます。
木製や金属製のサインに、中角~広角のスポットライトを当てることで、素材の質感が際立ちます。ただし、照明器具の設置位置や光束値、色温度も同時に検討します。間違ってしまえば、光のハレーションでサイン自体が見えづらくなることも考えられます。
〈間接照明式サイン〉
文字の背面に光を仕込み、壁面に光を反射させる方式。
文字が浮かび上がるような効果があり、上品で落ち着いた印象を与えます。高級感を演出したい個人カフェに適しています。
比較的近い距離で目線の高さに設置。大きさはあまり大きすぎず、上品に演出することを意識すると良いでしょう。
左から、内照式サイン/外照式サイン/間接照明式サイン のイメージ。それぞれに印象が異なる
いずれの方式でも重要なのは、文字が「読みやすい」ことです。
装飾性を重視しすぎて、何が書いてあるか分からないサインでは意味がありません。通行人が3~5秒で「カフェだ」と認識できる視認性を確保しましょう。
店構えとサインの連動──視線を捉える光の仕掛け
サインで「カフェ」と認識させ、店構えで「入りたい」と思わせる。この2段階の仕掛けが、素通り客を捕まえる鍵となります。
ここで重要なのは、「記憶に残す仕掛け」を作ること。一見さんも大事ですが、その場所を頻繁に通る人に対し、無意識のうちに脳に記憶してもらう仕掛け。これはとても重要な集客システムです。頭の引き出しに記憶してもらえれば、「ちょっと休憩したい」と思った時に、「あそこに珈琲店があったな」と思い出してもらえる。
日中はあらゆる景色が目に映ります。しかし、日没後は遠くの景色は闇に紛れるため、サイン照明が記憶を残す装置として働きます。
外から見える店内の光──温かみと居心地の良さ
夕暮れ時から夜にかけて、店内の照明が外に漏れる光景は、強力な誘引効果を持ちます。温かみのある光が窓から漏れ、店内で人々がくつろいでいる様子が見える──この光景が、「入ってみたい」という感情を引き起こします。
ここで重要なのが、色温度です。店内の照明が4000ケルビン以上の白い光だと、オフィスのような冷たい印象を与えてしまいます。一方、2700~3000ケルビンの温かみのある光であれば、「居心地の良さそうなカフェ」という印象を与えられます。
大きな窓を持つカフェであれば、窓際の照明を意図的に温かみのある色温度に設定し、外から見たときの印象をコントロールしましょう。カフェの窓は、店内の雰囲気を外に伝える「ショーウィンドウ」そのものなのです。
エントランスの照明──誘導灯としての役割
サインと店内の光で興味を引いた通行人を、確実にエントランスまで誘導するのが、入口周辺の照明です。
エントランスは、通りよりもやや明るく設定します。目安は500~700ルクス程度。通りが300ルクス程度であれば、エントランスはその1.5~2倍の明るさにすることで、自然と視線と足がそちらに向かいます。
ただし、明るすぎるのも逆効果です。コンビニのような均一で明るすぎる照明は、カフェの雰囲気を損ないます。明るさは確保しつつも、照明器具の選定と配置で、カフェらしい温かみを保つことが重要です。
ペンダント照明やブラケット照明を使い、エントランスに「顔」をつくる。ダウンライトだけでなく、装飾性のある照明器具を配置することで、「このカフェは雰囲気が良さそうだ」という第一印象を与えられます。
<次章予告>
後編では、建物自体に光を当てる演出方法も含め、その検証方法に切り込みます。 後編へ>
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







