作業療法士ICが伝える部屋別チェックポイント 55歳からのインテリアの作り方【リビング】

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長時間過ごす場所「リビング」 〜転ばないための床のはなし〜

これまで、階段玄関トイレお風呂と「いかにも危なそうな場所」の転倒リスクについて触れてきましたが、実は自宅内で最も転倒が多く発生している場所は「居間・リビング」なのです。
くつろぎの空間であるはずのリビングでの転倒が、骨折や寝たきりのきっかけになることも少なくありません。

今回は、そんなリビングで ”転ばないため” の安全な床にフォーカスして、作業療法士とインテリアコーディネーター、両方の視点からお話しします。

リビングにラグは必要?

フローリングのリビングには、ラグを敷くことで空間にアクセントが加わり、くつろぎ感もアップします。
インテリアコーディネーターとして、ゾーニングや色味のバランスを整えるために、ラグのご提案をすることはよくあります。

たとえば、こちらの写真は私がコーディネートしたリビングです。
白でまとめた空間に、ラグを敷くことでメリハリが生まれ、全体が引き締まっているのがわかっていただけると思います。

インテリア的にはラグがいい仕事をしてくれますが…

しかし、高齢になるとこの「ラグ」が思わぬ転倒リスクになります。
加齢により筋力が低下し、自分が思っているほど足先が上がらなくなってくるのが原因です。
今まで何十年と躓くことがなかった、ほんの1、2cmほどのこのラグの端に、ある日、躓きはじめるのです。

こちらの事例は、70歳代のご夫婦のお宅のビフォー写真とアフター写真です。
複数のラグを敷かれており、めくれを防ぐために養生テープで固定されていました。

ですが、安全面を考えると、ラグは中途半端に敷かず、敷くなら部屋全体に敷き詰めるほうが望ましいです。
また、毛足の長いラグは足がひっかかりやすいため、毛足の短いものを選択することも大切です。
さらになるべく床に物を置かないようにするのが理想です。

BEFORE:カーペットの重ね置き。めくれて危ないから養生テープで抑えている。
さらに床にはテーブルなどが置かれていて躓きの原因がたくさんある。

AFTER:部屋全体に敷き詰めて、床にあったものもこの際カーペットの外側へ。
部屋全体がスッキリして危険度もぐんと下がった。

スリッパや靴下を「履かない」という選択

「スリッパにつまずいた」「靴下を履いていて滑った」こうした原因による転倒も、非常に多く見られます。
そこで提案したいのが、裸足で過ごすという「履かない暮らし」です。

日本人は、もともと畳や木の床の上を裸足で生活していました。
しかし、新建材が普及し、現在は複合フローリングやクッションフロアなどの床材が主流となり、冬は冷たく、夏はべたつくという理由から、スリッパ・靴下生活が定着した経緯がありますが、

作業療法士としては、裸足で歩くことを推奨したいです。
足裏からの感覚刺激は、姿勢制御やバランス感覚の維持につながり、転倒予防にも効果的です。
また、スリッパや靴下を使わなければ、滑ったりひっかかったりするリスクをそもそも減らすことができるからです。

裸足ですごすのに適している床材

裸足で安全・快適に暮らすには床材の選び方も重要、床暖房を採用するのも一つの方法ですが、自然素材の無垢フローリングもおすすめです。

特におすすめなのは、針葉樹系のオイル塗装フローリング。やわらかくて温かみがあり、素足でも気持ちよく過ごせます。

我が家のリビングでは、パイン材のオイル塗装に浮造り加工を施した床を採用しています。
表面に細かな凹凸があり、滑りにくさも加わるので、シニア世代の転倒防止にはもちろんですが、自然素材の気持ちのいい床は子育て世代にもおすすめです。

もう一つおすすめなのが、ペット用床材です。
ペット用床材は、ペットの足腰への負担を軽減するために開発されたものですが、滑りにくいので実は人間にとってもとても歩きやすいのです。

滑りにくいと歩くときの踏ん張りやすさが違います。
加齢により足腰が弱ってくると、滑りやすい床を歩くというのは想像以上の負担となります。
現在は、多くのメーカーから高機能なペット用床材が出ています。滑りにくさに加え、見た目もナチュラルでインテリア性の高い製品が増えてきているのも嬉しいポイントです。

床の張り替えが難しい場合は、「滑りにくさ」を加えるフロアコーティングというのもあるので、ぜひ選択肢に加えておいてください。

こちらの写真は、50歳代のご家族のために、築30年のマンションをリフォームさせていただいた事例です。
小型犬を飼っておられたため、滑りにくさを重視してペット用床材を採用しましたが、これから先のご夫婦のことを考えると、とっても良い選択だったと思っています。

景色を見ながらここのカウンターでお酒を飲むのだそうです。

さいごに

一日の長い時間を過ごすリビングの足元を見直すことは、安全な暮らしを実現するための第一歩です。
ひっかかったり、つまづきそうなものを床に置かない。
電気コードなどの露出を減らす――そんな小さな工夫からはじめてみましょう。

暮らしが、もっと心地よく、もっと安全になるように。足元から、見直してみませんか。

執筆者紹介

松本 理絵

作業療法士(国家資格)
インテリアコーディネーター/二級建築士
有限会社宮本家具工業所 副社長
Web
 公式:トータルインテリア専門店 ミヤカグ
    インスタグラム も更新中
広島県インテリアコーディネーター協会 副会長

広島大学医学部保健学科を卒業し、広島市内にて作業療法士として病院で高齢者のリハビリの仕事に従事。
その後、結婚を機に夫の家業である家具製造販売会社に入社。
入社後インテリアコーディネーター資格、二級建築士資格を取得し、現在では「広島一敷居の低いインテリアコーディネーター」をキャッチコピーに、お客様の生活空間を豊かにするためのインテリアを提供している。
「元医療職をいかして、目の前の困っている人のニーズをしっかり拾って寄り添ったリフォームやアイテム選定など心がけています。」

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