空間構成のとらえ方【クライアントから選ばれるための3D活用】
- 3D活用法
目次
はじめまして。
一級建築士/インテリアデザイナーの佐藤のりこと申します。(プロフィールはこちら)
みなさんは、どんな風に3Dを活用していますか。
私の経験から、CGでの3Dパース表現は、プランニングからクライアントへのプレゼン、施工打ち合わせまで、あらゆる場面で活用が可能と考えています。
その意味で、建築士やインテリアデザイナーにとって「3Dマイホームデザイナー」はとても便利なツールです。当コラムの連載では、設計・デザイン業務を行うプロが、CGで作る3Dパースを活用しながら、どのようなスキルを、どのように積み重ねていけるのかを、数回に分けてご紹介していきます。
➀インテリアデザイナーに必要な「空間理解」
インテリアデザイナーにとって、図面を読めることは基本スキルです。
しかし、図面だけで空間を立体的に把握するのは簡単ではありません。
経験を積むほど精度は上がりますが、最初は誰でも苦労します。
また、頭の中で描いた立体空間が、実際のものと完全に一致するとは限りません。
3Dパースは、クライアントにプレゼンするためのツールであるだけでなく、デザイナーとしての成長、つまり空間把握の完成度を高める“補助輪”のような役割も担うことができます。
➁立体空間を構成する力:先天的に備わっている人は少ない
私は現在、建築プロジェクトの意匠設計・デザイン担当として、一つのプロジェクトを通して深く関わる業務を行っています。一方で、過去には部分的な業務を担当していた時期もありました。
大手ハウスメーカーでのコーディネート業務を約3年、地元密着型ハウスメーカーでの建築設計(意匠設計)業務を約2年経験しています。大手企業の組織においては、営業・設計・施工が明確に分業されているため、それらを合わせた約5年間で、延べ300件以上のクライアントに対し、インテリア提案や間取り設計を行ってきました。
その中で強く感じてきたのは、2Dの建築設計図だけを見て、空間を立体的にイメージできているクライアントは、ほとんどいないということです。
まれに、立体空間構成力が備わっているクライアントと巡り合うこともありました。
そうした場合は、細かな説明をしなくても理解が進み、プロジェクトが驚くほどスムーズに運んだことを覚えています。しかし、そのようなケースは本当に少数派です。
これはクライアントに限った話ではありません。
プロであっても、最初から頭の中で空間を正確に3Dとして捉えられる人は多くありません。図面を読んでから現場を見る、平面図から展開図を描く、平面図でプランしながら立面図を描く、手描きでパースを描く、などの作業を重ねるうちに身についていくことが多いと思います。
この「イメージのズレ」は、建築業界がいわゆるクレーム産業と言われる背景のひとつにもなっています。
2Dの図面で説明した内容が、クライアントの中で十分にイメージされないまま工事が進み、「思っていたのと違う」という言葉が生まれてしまうのです。
こうした問題を解決する手段として、3Dパースや、さらにVR・メタバースを導入する建築会社も増えてきています。これらの技術がより身近なものになれば、クライアントとの認識の齟齬は確実に減り、クレームの抑制につながるだけでなく、もっと建築業界が活気づくかもしれません。
③PCでの3D立ち上げは、建築現場のバーチャル体験
このように、3Dパースはクライアントへ説明するためのツールとして有益なのは周知の事ですが、プロにとっての3Dパースは、それ以上に設計そのものを理解するためのツールとして、より深い意味を持っていると感じています。
佐藤氏が作成した3Dパース
私がPCで3Dソフトを初めて使ったのは、ハウスメーカーを卒業した数年後でした。当時働いていたハウスメーカーでは、インテリアコーディネーターは建築現場に立ち会う事は業務範囲外でした。自分がコーディネートした現場を見る機会が少なかったのはとても残念な事でしたが、組織の中で分業によって仕事を進める以上、それはある意味、避けられないことでもありました。
その後、工務店や設計事務所のスタッフとしてさまざまな業務に携わるようになり、CADで作図を行うようになったことをきっかけに、CGパースソフト(SketchUp)の講習を受ける機会を得て、クライアントへのプレゼン力を高める目的で講習を受けました。
当時学んだパースソフトは建築に特化しておらず、パーツを一つひとつ作り上げていくスタイルでした。CGの3D画面上で、まず空間の箱を作り、床を見立てた板を作り、同様に柱を作り、壁天井の仕上げ材を作ってそれらを組み合わせる。講習終了後には実務でも使用するようになり、その作業を繰り返しているうちに、なんだか自分が職人になったような「気分」になっていきました。
④3Dは「見せるため」だけでなく「学ぶため」にも使える
「気分」という言葉を使いましたが、実際にCG上で自分自身が建築物を作り上げており、現場に近い体験をしている感覚がありました。
もちろん、本当にリアルな建築現場とは格段の違いはあります。それでも、現場に通う経験が少なかった当時の自分にとって、建築構造や仕上げ材の大きな学びになったのは間違いありません。
さらに、3Dで立体的に確認することで、2Dの設計図書だけでは見落としがちな点に気づけるようになりました。
例えば、平面上で北面と東面の壁にコーニス照明をデザインしたとします。
壁面近くの天井のどこかにスリットを設けて照明器具を仕込む必要がありますが、あなたならどうやって納めますか?
北と東のコーナー部分も連続して垂れ壁を付けるか、天井をへこませるか、反対に天井を下げるか―――。
経験を重ねた今であれば、いくつかの納まり案が自然と思い浮かびますが、経験が浅いとデザインに気を取られて、実際の作り方まで思い至らない事があります。
デザインにおいては実はここがとても重要なポイントです。
「ここにコーニス照明があるといいな。」はだれでも思いつきます。それをいかに建築構造に支障がないように、しかも自然に生まれたように何気なく美しく照明器具を仕込んでいくのは、デザイナーの経験の厚みと知恵=設計技術で実現するものなのです。
CG空間で立体的に立ち上げる作業は、まさに建築現場のバーチャル体験です。体験することで気が付かなかった事に気付けて、設計技術を押し上げるきっかけになってくれます。
最後に
矛盾に気付かないまま図面を渡し、結果として現場を混乱させてしまうケースは、決して珍しくありません。こうした小さな行き違いの積み重ねが、デザイナーとしての信用を少しずつ削っていくこともあります。
しかし、CGパースを立ち上げるプロセスには、その矛盾を事前に発見する力があります。空間を立体化することで、図面上では見落としがちな納まりや構造的な制約が可視化され、設計の精度は確実に一段引き上げられます。
納まりや建築構造を理解したうえでデザインすれば、クライアントだけでなく、現場の職人たちとも共通言語で話せるようになります。結果として、プロジェクト全体のコミュニケーションが滑らかになり、現場からの信頼も得られます。
3Dパースソフトは、建築・インテリアのプロにとって、クライアントへのプレゼンテーションツールであると同時に、空間理解や立体構成力を高めるための実践的な訓練ツールでもあります。
設計や提案の精度を高めていきたいと考えるのであれば、日々の業務の中で3Dを活用することは、有効な手段のひとつになるはずです。
筆者紹介
一級建築士、インテリアデザイナー
佐藤のりこ
PhD株式会社
英国インテリアデザイン協会正会員
中部インテリアコーディネーター協会 初代会長
ハウスメーカー・建築士事務所などで、建築とインテリアの業務に従事し、2010年に一級建築士資格取得。2013年ロンドンのThe Interior Design SchoolにてInterior Design Professional Diplomaを取得。2015年~2025年NOCO DESIGN一級建築士事務所を運営し、現在はPhD株式会社所属。
建築を知るインテリアデザイナーとして、「良いデザインは人を幸せにする」という信念のもと、空間が持つ力を最大限に引き出している。







