人生100年時代の住環境を整える[2]
- 取材

目次
[1]100歳住宅の考え方
[2]20年後を見据えて少しずつがポイント
[3]将来のためにインテリアをどうするかも考えてほしい
「人生100年時代」。厚生労働省もそれに向けた会議を立ち上げるなど、日本の高齢化は進んでいます。
20年前、福祉住環境コーディネーターの資格を取ったことをきっかけに高齢者の住まいとインテリアについての研究を始められた松本佳津氏に、ご自身が提唱する「100歳住宅🄬」について伺いました。
松本佳津 氏:
インテリアコーディネーター&デザイナー/愛知淑徳大学・教授/株式会社マツドットコムアイエヌジー
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20年後を見据えて少しずつがポイント
――私の両親は最期、90歳の手前で介護施設に入ったんですが、変な話、この部屋に何年暮らすんだろう、と思ったら家具やインテリアを頑張るのもなぁ…と思ってしまいました。
松本さん:
そう思っちゃいますよね。
歳を取ってからのリフォームとなると、あと何年生きられるかわからないからそんなにお金かけなくていいとかいう人がほんとに多くて、”無理やり”と思わせてはいけないし、そう思わせてしまったらこちらも心苦しくなります。
だから20年後を見据えて80%くらいの感じで「まだ大丈夫」って思っているうちから少しずつ対策をするのがいいと考えています。
これが「100歳住宅」のひとつ目の考え方です。
100歳住宅の考え方① 20年後を見据えて80%くらいの感じで
松本さん:
ここで20年といっているのは、10年では短いから。
認知症は20年前から始まっているなんてデータも出てきていますし、20年後くらいになると子育て中だった人も子どもが独立しているだろうし、会社員なら定年を迎えるなどライフステージも変わる節目でしょう。
だからそのくらいのスパンで考えておいて、80%くらい、100%は目指さないで余裕を持たせておく。
生活していて「あら?」って思ったら、余力を残しつつ家の中を変えていくのがいいんじゃないかな。
建築的な視点でいうと、家は劣化していくもので、20年くらいたつと給排水とか住設系は見直しは必要なんです。省エネ含めてより良い商品もでてきますしね。
――あ、確かにわが家も今のところに住み始めてそろそろ20年で、トイレと湯沸かし器を取り替えました。タイミング的には確かにおっしゃる通りですね。一度に来たので費用のこともあってずいぶん迷いました。
松本さん:
そうでしょう?住設を変えるのはなかなか大変だけど、インテリアはいつからでも始められるんです。
少しずつ、上手に進めてほしいなと思います。
――どんな風に変えていくのがよいか、サンプルがあればぜひ拝見したいです。
松本さん:
実は「100歳住宅はこんな家」みたいなサンプルプランは用意していないのです。
家自体の構造や築年数、地域、家族構成など条件がまちまちで、その方の条件を理解しないと一概にこれがいいとは言えないからです。
それに介護対策のための補助金*を適用しようとすると家全体を対策しないといけなかったり、ケアマネージャー*さんと一緒にしないといけなかったりと、そちらの条件もあるからです。
ですが、一番大事なのはその方がどうしていきたいかなんです。
その方がどこを目指しているかをきちんとヒアリングしておかないといけない。そう思っています。
*補助金:
介護で活用できる補助金制度はいくつかあるが、ここでいう補助金は「居宅介護住宅改修費」のこと。
*ケアマネージャー:
介護支援専門員とは、要介護者や要支援者の人の相談や心身の状況に応じるとともに、サービス(訪問介護、デイサービスなど)を受けられるようにケアプラン(介護サービス等の提供についての計画)の作成や市町村・サービス事業者・施設等との連絡調整を行う者とされています。(厚生労働省資料「介護支援専門員(ケアマネジャー)」より引用)
100歳住宅の考え方② 一番大事なのはその方がどう暮らしていきたいか
松本さん:
では、事例を2件ご紹介しましょう。どちらも空間認知がキーワードです。
【事例1】視線のぬけ、見通し。視覚情報を得やすくする
松本さん:
こちらは90歳越えのお母様と娘様の2人暮らしのお宅でした。
お宅に伺ったら物がたくさんあふれていました。お母様はしっかりされていて、まだまだ自分でやりたい、やっていきたいとおっしゃいました。
ですから、まずはお母様が暮らしやすいようにすることを一番に考えることにしました。
水回りがお母さまのお部屋と近かったので、壁や扉をなくして、お部屋とバス・トイレまでをお母様のエリアとして、伝え歩きでいいので自分で行けるようにしました。
娘様と二人暮らしで、お客さまもあまりいらっしゃらないっておっしゃるので思い切ってしました。

【事例2】床とのコントラスト、肌の反射率に近いカラースキーム
松本さん:
60歳くらいでリタイヤしたことを機に新しい街で中古の住宅を購入されたので、リフォームをというご依頼でした。
それまではお店をされていてとっても多忙な日々を送ってこられたのですが、これからは家にいる時間が長くなるだろうから、その時間を大切にしたいということでした。それから、新しいお家ではパーティーもしたいし、高見えするようにもしてほしいと(笑)
資金はお持ちでしたが、できるだけリーズナブルな素材を使いつつ(笑)、ご要望にお応えしました。
そしたら、独立されているお嬢様たちも頻繁に帰ってくるようになったそうです。家が変われば、人も変わるんですよね。

松本さん:
今日を楽しく豊かに暮らすことが大切だし、今日がいいと明日も楽しみで生きることの意欲につながります。それが大事だと思います。