[連載]カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割― カフェの照明計画 第7章 また来たくなる店内演出と内装素材の最適な組み合わせ(後編)
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カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
第7章 また来たくなる店内演出と内装素材の最適な組み合わせ(後編)
記憶に残る「違和感のなさ」
「また来たい」と思わせる店の最大の特徴は、実は「違和感がない」前編の「なんかいいね」と似ていますが、この違和感がないことも「なんかいいね」に繋がる大切な要素です。
眩しくない、暗すぎない、影が気にならない、色が自然──。
こうした「何もストレスがない」という状態が、究極の快適さを生み出します。
眩しさがない(グレアゼロ)
客席に座ったとき、視線の先に照明器具が直接見えて眩しい──これだけで、その店の印象は無意識に悪くなります。
どれだけ料理が美味しくても、インテリアが素敵でも、眩しさという一点のストレスが、すべてを台無しにします。高齢になると明るさよりも眩しさの方がストレスを感じる要因では上位になります。
遮光角30°以上の器具を選ぶ:
ダウンライトやスポットライトは、遮光角が30°以上あるものを選びましょう。
これにより、座った状態(床上約1.2m)での視線に、光源が直接入りません。照明器具メーカーのカタログでは「深型」の明記を参考にしてください。
配線ダクトレールの角度調整:
スポットライトを使う場合、角度調整が重要です。商品を照らすことばかり考えて、客席からの視線を考慮しないと、眩しさの原因になります。施工後、実際に席に座って確認しましょう。器具の種類によってはハニカムルーバーなどのグレア対策商品が後付けで装着できるオプション設定のシリーズもあります。
通常のダウンライト(イメージ)
グレアレスダウンライト(イメージ)
影が気にならない(顔に影ができない)
友人と向かい合って座ったとき、相手の顔に不自然な影ができていると、会話が楽しめません。また、一人でPC作業をするとき、手元に自分の影が落ちると、作業がしづらくなります。更にノートPCが光沢のある画面の場合、照明器具が映り込みます。これを解消するには間接照明が有効です。
複数光源で影を薄くする:
一つの光源だけで照らすと、濃い影ができます。ダウンライトだけでなく、間接照明を組み合わせることで、影が薄く、柔らかく感じます。
顔の高さに合わせた配光:
座った状態での顔の高さ(床上約1.2~1.4m)に、適度な光が当たるように配光を調整します。上からの光だけでなく、天井面からの反射光も計算しましょう。
色が自然(演色性Ra90以上)
料理が美味しそうに見えない照明は、カフェにとって致命的です。せっかく丁寧に作った料理も、照明が悪ければ、くすんで見えてしまいます。高演色型の器具を選定しましょう。
演色性とは、自然光に比べて、どれだけ色を正確に再現できるかを示す指標です。
Ra90以上であれば、料理の色が自然に見えます。
特に、テーブル面を照らす照明は、高演色性を重視しましょう。
色温度3000ケルビン前後が万能:
料理を美味しそうに見せるには、3000ケルビン前後の色温度が最適です。温かすぎず、冷たすぎず、自然な色味を再現できます。高回転率を求める場合は500ケルビン上乗せしても良いでしょう。
明るさが心地よい(照度の適正範囲)
明るすぎても暗すぎても、ストレスになります。「ちょうど良い明るさ」は、用途と時間帯によって異なります。
店舗の立地条件、内装デザインとの調和、狙う客層を意識し多角的に判断しシーン設定を検討すると良いでしょう。
朝・昼:500~600ルクス以上:
活動的な時間帯には、やや明るめが心地よく感じられます。外の自然光とのバランスも取りやすくなります。
夕方・夜:200~400ルクス:
落ち着いた時間帯には、照度を落とします。この変化が、時間の移ろいを感じさせ、「もう少しここにいたい」という気持ちを引き出します。
ここで重要なポイントは照度だけに着目せず、回路ごとの明るさ設定を意識することが成功のポイントです。
個別調整の可能性:
特別席には、客自身が調光できる仕組みを用意すると、満足度がさらに高まります。
スタンド照明を対象にするのがオススメです。
「何もストレスがない」という究極の快適さ
眩しくない、影が気にならない、色が自然、明るさが心地よい──。
これらすべてが揃ったとき、客は照明について何も考えません。ただ、「居心地が良い」と感じます。
この「何も意識させない」ことが、また来たくなる店の条件です。
逆に考えると「ここのお店、照明効果を考えているね」と感じられたら、われわれ照明設計者の負けになります。
シーン設定が生む「時間の移ろい」
照明が一日中同じでは、単調です。時間とともに照明が変化することで、空間に「時間の移ろい」が生まれ、それが記憶に残ります。
先にも述べましたが、スイッチ回路設計やゾーニングの考え方が必要となります。
朝・昼・夕・夜で変わる空間
朝(7:00~10:00):
明るく爽やかに(500~600ルクス、3500~4000ケルビン)。一日の始まりにふさわしい、活動的な雰囲気をつくります。
昼(11:00~15:00):
自然光を活かしつつ、適度な明るさを保ちます(400~500ルクス、3000~3500ケルビン)。窓際は自然光で十分な場合もあります。
夕方(16:00~18:00):
徐々に照明を落とし始めます(300~400ルクス、3000ケルビン)。外が暗くなり始めると、店内の温かい光が際立ちます。
夜(18:00~21:00):
最も照明を落とし、落ち着いた雰囲気に(200~400ルクス、2700~3000ケルビン)。間接照明の比率を高め、ムーディーな空間を演出します。
気づかないうちに照明が変わっている心地よさ
この変化は、急激ではなく、緩やかであることが重要です。客が気づかないうちに、少しずつ照明が変わっている。
そして、ふと気づくと、「あ、もう夕方か」「いつの間にか夜になってる」と感じる。
この「気づかないうちに変化している」感覚が、時間を忘れさせ、心地よさを生み出します。
自動調光システムとシーンコントローラースイッチを活用することで、この緩やかな変化を実現できます。この緩やかな変化を仕掛ける機能がフェード設定です。
シーンの切り替え時間を1分以上かけて入れ替えが出来ると、客は照明の変化に気づくことはありません。
時間帯で「空気感」が変わる仕掛け
照明だけでなく、BGMの音量や選曲、空調の温度設定も連動させることで、空間全体の「空気感」が変わります。
朝:
明るい照明 × アップテンポのBGM × やや涼しめの空調 = 活動的な空気感
夜:
暗めの照明 × スローテンポのBGM × やや温かめの空調 = リラックスした空気感
この「空気感の変化」が、「また来たい」という感情を引き出します。
朝のイメージ
夜のイメージ
店員の接客と照明の連動
照明は、店員の接客スタイルにも影響を与えます。明るい照明の店では、店員も自然と活気ある接客をします。暗めの照明の店では、店員も静かで落ち着いた接客をします。
明るい照明 × 活気ある接客 = エネルギッシュな店
低価格高回転型の店では、明るい照明と、活気ある接客が連動します。店員の声が明るく、動きも機敏で、店全体にエネルギーが満ちています。
この雰囲気が、「さっと食べて、次の予定へ」という気分を促します。客も店員も、活動的になるのです。
落ち着いた照明 × 静かな接客 = 大人の隠れ家
高単価低回転型の店では、落ち着いた照明と、静かで丁寧な接客が連動します。店員の声は穏やかで、動きも落ち着いていて、店全体に静けさが漂っています。
この雰囲気が、「ゆっくり過ごしたい」という気分を促します。客も店員も、リラックスするのです。
照明が接客スタイルを決める
興味深いことに、照明が変われば、店員の接客スタイルも自然と変わります。明るい店で静かに接客しようとすると、逆に違和感があります。暗い店で大きな声で接客すると、空間の雰囲気を壊します。
照明は、空間の「ルール」を決める大きな要因です。
「また来たい」を生む記憶の残し方
「なんか良かった」という感覚は、実は「記憶」に残りやすい特徴があります。具体的に何が良かったか説明できないけれど、心地よかった──この曖昧さが、かえって記憶に残るのです。
一つだけ印象的なポイントをつくる
すべてを完璧にするのではなく、一つだけ「これ!」という印象的なポイントをつくりましょう。
例えば、壁面のニッチに季節の花を飾り、そこに美しいスポットライトを当てる。
窓際の席に小さなテーブルランプを置き、客が自由に調光できるようにする。
奥の席だけ、間接照明で特別な雰囲気をつくる──。
この「一つだけの特別」が、記憶に残ります。
「あの店、壁のニッチの花が素敵だったな」「窓際の席、ランプがあって良かったな」──。
完璧すぎない「余白」の重要性
完璧すぎる空間は、実は記憶に残りません。少しの「余白」や「遊び」があるほうが、人間らしさが感じられ、親しみやすくなります。
例えば、すべての席が同じ照度ではなく、席によって少しずつ明るさが違う。
すべての器具が新品ではなく、一部にヴィンテージの照明を使う。
完璧に左右対称ではなく、少しだけ非対称なレイアウトにする──。
この「完璧すぎない感じ」が、「また来たい」という気持ちを引き出します。
光・音・香り・触感・味 五感全体で記憶させる
照明だけで記憶に残るわけではありません。五感すべてが連動することで、深い記憶が生まれます。
光: 温かい照明の下で、料理が美味しそうに見える
音: 心地よいBGMと、適度な会話の音
香り: コーヒーの香りと、木材の香り
触感: 無垢材のテーブルの手触り、本革のソファの座り心地
味: 丁寧に淹れられたコーヒーと、美味しい料理
これらすべてが調和したとき、「なんか良かった」という記憶が生まれます。
3Dシミュレーションでの「心地よさ」の検証
ここまで解説してきた「なんか良かった」は、数値では測れません。
しかし、3Dシミュレーションで事前に「この感じ」を確認することはできます。
シミュレーションソフトにより反映のされ方が変わります。
ソフトの選択を多角的に判断して決めることをおススメします。
数値では測れない「雰囲気」の確認
照度が400ルクスで、色温度が3000ケルビンで──という数値は重要です。
しかし、それ以上に重要なのは、「この空間で過ごしたいか?」という感覚です。
3Dシミュレーションでレンダリング画像を見たとき、「ここに座りたい」「この雰囲気、好きだな」と感じるか。この感覚的な判断が、実は最も重要です。
施主と「この感じ」を共有する方法
施主に数値だけを説明しても、ピンときません。
しかし、3Dレンダリング画像を見せて、「朝はこんな感じ、夜はこんな感じ」と視覚的に共有すれば、「この感じ、良いですね!」と納得してもらえます。
時間帯ごとのレンダリング画像、席ごとの明るさの違い、素材に光が当たったときの質感──これらを視覚化することで、「なんか良かった」を事前に共有できます。
まとめと次章予告
また来たくなる店は、内装素材、照明、色温度、照度、シーン設定、そして接客──すべてが噛み合って完成します。その結果生まれるのは、「なんか良かった」という曖昧だけれど心地よい記憶です。
この記憶こそが、「また来たい」という感情を引き出します。数値や理論も大切ですが、最終的には「この空間で過ごしたいか?」という感覚が、すべてを決めるのです。
次回は最終回です。
ここまでお伝えしてきた内容のまとめと、”これだけは言っておきたい”ことをお伝えします。
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







