[連載]カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割― カフェの照明計画 第6章 店内に入った時ワクワクする内装デザインと照明(前編)
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カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
第6章 店内に入った時ワクワクする内装デザインと照明(前編)
入店の瞬間──期待感を高める「序章」
第5章でサイン照明と店構えによって素通り客を捕まえることに成功しました。次に重要なのは、「入店の瞬間」です。ドアを開けて一歩足を踏み入れた時、客が最初に感じる印象が、その後の滞在時間や満足度を大きく左右します。
この数秒間が、「ここに来て良かった」と思わせるか、「思っていたのと違う」とがっかりさせるかの分かれ道なのです。
第一印象の重要性
人は視覚情報から多くの印象を受け取ります。
入店した瞬間、目に飛び込んでくる光景──温かみのある照明、質感豊かな素材、奥へと続く空間の広がり──これらが一体となって、「ワクワク感」を生み出します。
外から見えていた温かい光の正体が、木材の質感を際立たせる照明だったこと。
壁面にさりげなく配置されたニッチに、小さなスポットライトが当たり、季節の花や小物が浮かび上がっていること。
奥の席から漏れる柔らかな光が、「あそこに座りたい」という期待感を高めること。
この「序章」を丁寧に設計することが、カフェの世界観を伝える第一歩です。
入店した瞬間、目に飛び込んでくる光景が「ワクワク感」を生み出す(3Dアーキデザイナー収録サンプルより)
エントランスから店内への視線の流れ
入店時の視線は、自然と「明るい場所」へ向かいます。
エントランスから店内を見渡した時、視線の先に何があるか──これを意図的にコントロールすることで、客を理想的な席へと誘導できます。
例えば、カウンター席を見せたいのであれば、カウンター背面の壁に間接照明やスポットライトを配置し、視線を引き寄せます。
奥のソファ席へ誘導したいのであれば、通路の照明を控えめにし、奥の席だけを明るく演出します。
この「光による視線誘導」が、入店の瞬間から始まっているのです。
素材と照明の関係性──質感を際立たせる光の当て方
内装素材の魅力を最大限に引き出すには、「どの角度から」「どのくらいの距離で」「どの範囲を」照らすかが重要です。同じ素材でも、光の当て方次第で、温かく見えたり、平板に見えたりします。
配灯
素材に対する光の当て方によって、見え方は劇的に変わります。
〈ベース照明のみ〉
素材全体が均一に明るくなりますが、素材の凹凸が見えにくく、平面的な印象になります。
照度を均一にしたい理由があれば別ですが、カフェではベース照明を基準照明と位置づけ、別回路で計画すると良いでしょう。
演出照明でベース照明の役割を兼用するくらいの考え方でも良いと思います。
〈壁際の配灯〉
壁から近い位置に照明器具を配灯することで、素材の凹凸に陰影が生まれ、質感が際立ちます。
木目、レンガの凹凸、漆喰の表情──これらを美しく見せるには、素材をなめる光が効果的です。壁面から30~50cm程度の距離に器具を配置することで、凹凸が際立つ美しい陰影が生まれます。
ウォールウォッシャー照明やダウンライトを使い、壁面に近い距離から照らしましょう。
〈下から照らす〉
アッパーライトとして、壁面や天井を下から照らす手法。
ドラマチックで非日常的な雰囲気を演出できます。ファサード照明でも使われますが、店内でも、柱や壁面の一部に使うことで、空間にアクセントが生まれます。
ただし、近くに来ると照明が下にあることから眩しさを伴います。通路など覗き込まれない場所の配灯条件を意識します。
ファサード照明で使われるアッパーライトは店内でも有効
照射距離
光源から素材までの距離も、質感の見え方に影響します。
〈近距離(30~50cm)〉
光が強く当たり、素材の細かな質感まで際立ちます。ニッチや棚の中に仕込む照明に適しています。ただし、光が集中しすぎて眩しくならないよう、光束や調光スイッチで対応できる器具選定をします。
〈中距離(1~2m)〉
最もバランスが良く、素材の質感と全体の明るさを両立できます。壁面を照らすスポットライトや、テーブル上のペンダント照明は、この距離感が基本です。
特に気をつけるのはペンダント照明。よくある照明マニュアルでは、机上面から700mmが理想とされていますが、これはペンダント照明を中心にした家庭用の意匠デザインの考え。カフェでは頭がぶつかる可能性が高いので、もう少し高めの設定をします。天高とのバランスを考える必要があります。
〈遠距離(3m以上)〉
光が拡散することを考え、天高が高ければ狭角配光のダウンライトやスポットライトが正解の場合もあります。カタログの配光データを参考にすると良いでしょう。
壁面の質感をより際立たせるウォールウォッシャー照明
部分照明と全体照明の使い分け
空間の魅力を引き出すには、「全体を均一に照らす」のではなく、「部分的に強調し、全体はやや控えめに」するのが鉄則です。
〈全体照明(ベース照明)〉
天井のダウンライトや拡散型の照明で、空間全体の基本的な明るさを確保します。照度の目安は200~400ルクス程度に設定し、調光スイッチで最後の仕上げをします。ここは単調で大丈夫です。安全性と視認性を担保する土台となります。
〈部分照明(アクセント照明)〉
壁面のアート、ニッチの小物、カウンターの商品、テーブル面──これらに狭角~中角のスポットライトやユニバーサルタイプのダウンライト照明を当て、視線を引き寄せます。部分照明の照度は、全体照明の2~3倍が目安です。
この「明暗のメリハリ」が、空間に奥行きと表情を生み出すのです。
空間デザインが感性に響く仕掛け
照明は単に「明るくする」だけの道具ではありません。人の感情や行動に影響を与える、心理的な装置でもあります。
すべてを均一に明るくした空間は、安全で機能的ですが、単調で退屈です。一方、明るい場所と暗い場所を意図的に作ることで、空間に奥行きと物語が生まれます。
例えば、エントランス付近はやや明るく(500~600ルクス)、
中央の客席エリアは落ち着いた明るさ(300~400ルクス)、
奥のソファ席は最も暗く(200~300ルクス)
──このように段階的に明るさを変えることで、空間が広く、深く感じられます。
ここに時間帯や客層に合わせて照度設定をして自動化することで、空間を照明でコントロールすることが空間デザインの要のひとつとなり、客のマインドをコントロールすることを意味します。
明るければ活動的に、暗ければリラックスした気分に──光が無意識に感情を導くのです。
サバンナ効果(奥の明るい場所への視線誘導)
前章でも触れましたが、人は本能的に「明るい場所」に視線を向け、そこに安全や魅力を感じます。これを「サバンナ効果」と言います。
カフェの奥に特別な席(窓際のソファ、緑が見えるカウンターなど)がある場合、そこを他よりもやや明るく照らすことで、客は自然とその席に興味を持ちます。「あそこに座りたい」という感情を、光が引き出すのです。
サバンナ効果のイメージ。左の方が店内が明るく安心感を与える。
間接照明による天井・壁面の演出
直接照明(ダウンライトやペンダント照明)だけでは、空間は無機質に感じられます。間接照明を加えることで、空間全体が柔らかく、包み込まれるような居心地の良さが生まれます。
〈コーブ照明〉
天井と壁の境界に光を仕込み、天井面を照らす手法。天井が明るくなることで、空間が広く感じられます。光源と天井の隙間は250mm以上を推奨します。
〈コーニス照明〉
壁面を上から下に向けて照らす手法。凹凸のある素材(レンガ、木材、タイル)に使うことで、陰影が生まれ、素材の質感が際立ちます。
間接照明の色温度は、内装のコンセプトに合わせます。ナチュラル系であれば2700~3000ケルビン、モダン系であれば3500~4000ケルビン。直接照明と色温度を統一することで、空間全体に一貫した雰囲気が生まれます。
視線の高さに合わせた光の配置
人は座った状態と立った状態で、見える景色が変わります。
照明計画では、両方の視線の高さを考慮する必要があります。
〈座った状態(床上約1.2m)〉
この高さが、客が最も長く過ごす視線です。
壁面の装飾、ニッチの小物、窓の外の景色──これらが美しく見えるように、照明を配置しましょう。
また、この高さで器具が直接見えてグレアが発生しないよう、遮光角を確保します。
〈立った状態(床上約1.5m)〉
入店時や移動時の視線です。カウンター、サイン、メニューボードなど、立った状態で見るものに、適切な照度を確保します。
<次章予告>
後編では、遊び心のある内装デザインと照明、来店者自身が光を調節できる仕掛け、そしてゾーニングによる多様な居場所づくりについて解説します。 後編へ>
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







