[連載]カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割― カフェの照明計画 第6章 店内に入った時ワクワクする内装デザインと照明(後編)
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カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
第6章 店内に入った時ワクワクする内装デザインと照明(後編)
遊び心のある内装デザインと照明
カフェの魅力は、機能性だけでなく、「遊び心」や「驚き」にもあります。
照明を使った小さな仕掛けが、空間に個性と温かみを与え、「また来たい」と思わせる要素になります。
調光可能な個別照明(テーブル上のスタンド照明やペンダント照明)
すべての照明を店側が完全にコントロールするのではなく、一部を客に委ねることで、「自分好みの空間」をつくる楽しさが生まれます。
テーブル照明の活用
窓際のカウンター席やソファ席に、小さなテーブルランプを配置します。客が手元のスイッチで点灯・消灯できる、あるいは調光できる仕様にすることで、「自分だけの特等席」という特別感が生まれます。
ランプシェードの素材や色にこだわることで、点灯時の光の色味や広がり方も変わります。和紙のシェードであれば柔らかな光、ガラスのシェードであればシャープな光──素材選びも楽しみの一つです。
調光可能なペンダント照明
テーブル席の一部に、調光機能付きのペンダント照明を配置します。明るさを3段階程度で調整できるようにすることで、PC作業をする人は明るく、ゆっくり過ごしたい人は暗く──多様なニーズに応えられます。
お客様自身が光の強さを調節できる仕掛け
「自分で調節できる」という行為そのものが、空間への愛着を生みます。
お客様自身が光の強さを調節できる仕掛け
カウンター席やボックス席に、小さな調光スイッチを埋め込みます。客が自由に明るさを調整できることで、「自分の居場所」という感覚が強まります。
ただし、全席に導入するとコストがかかるため、特別席(窓際、ソファ席、個室風の席)に限定すると良いでしょう。この「特別な席だけの特権」が、その席の価値を高めます。
客が自由に明るさを調整できる「特別な席だけの特権」がその席の価値を高める
スマートフォン連動の調光システム
最新の照明制御システムでは、スマートフォンのアプリで照明を調整できるものもあります。
QRコードを読み込むだけで、自分の席の照明を操作できる──こうした仕掛けは、テクノロジーに親しんだ若い世代に響きます。
お客様自身が光を調整できる仕掛けを作るときに注意することは、前編のベース照明を調光できる回路設計にすることで、これが成功のポイントです。
外光や時間帯によりベース照明の明るさをコントロールすることで、個別照明が適度な明るさを作ることができる仕掛けとなります。
テーブルに置くスタンド照明でもペンダント照明でも考え方は同じです。
べース照明の明るさをコントロールすることで、個別照明が適度な明るさを作ることができる。
3パターンのニッチ照明
壁面に設けたニッチ(凹み)は、小物や植物を飾るだけでなく、照明の演出次第で空間のアクセントになります。
①上からの光
ニッチの天井部分にダウンライトを仕込み、下に置いた小物や植物を照らします。
最もスタンダードな手法で、飾られたものがくっきりと見えます。
色温度は2700~3000ケルビンが、温かみを演出します。
②下からの光
ニッチの底面に導光板の照明を仕込み、均一で柔らかな面発光を実現します。
ニッチ全体を下から上に向けて照らすことでドラマチックで非日常的な雰囲気が生まれ、オブジェや花瓶のシルエットが美しく浮かび上がります。
③後ろからの光でシルエット効果
ニッチの背面に間接照明を仕込み、置かれた小物をシルエットとして見せる手法。
輪郭だけが浮かび上がり、ミステリアスで印象的な演出になります。枝物や特徴的な形のオブジェに効果的です。
この場合は幅6mmの極細のライン照明を仕込むことで、照明器具の存在を消した演出効果が生まれます。まるで小物自体が発光しているかのような、魔法のような印象を与えられる効果があります。
この3パターンを、店内の複数のニッチで使い分けることで、空間に変化とリズムが生まれます。
そして、調光はマスト。回路は別回路にして時間で明るさを変える仕掛けができれば完璧です。
ニッチの照明。画像左から、①上からの光、②下からの光、③後ろからの光
2パターンの棚照明
オープン棚や飾り棚に照明を仕込むことで、本や小物、コーヒー豆のパッケージなどが美しく見えます。
①スポットライト
棚の上部や天井から、狭角~中角のスポットライトを当てる手法。棚全体を照らすのではなく、特定の場所(目線の高さの棚、特に見せたい商品)に光を集中させることで、視線を誘導できます。
②棚用什器照明
棚板の下に細いLEDバーライトを仕込む手法。棚板ごとに光が仕込まれることで、棚全体が均一に明るくなり、商品やディスプレイが見やすくなります。什器照明の色温度は、棚に置くものに合わせます。
木製の本や雑貨であれば2700~3000ケルビン、ガラスや金属の小物であれば3500~4000ケルビンが適しています。
季節や時間で変わる光の演出
照明は固定的なものではありません。季節やイベントに合わせて、光の演出を変えることで、「いつ来ても新しい発見がある」空間になります。
・季節の演出
春は桜色のフィルターを使った柔らかな光、
夏は涼しげな青白い光、
秋は落ち着いたオレンジ色の光、
冬は温かみのある暖色の光
――― 季節ごとに色温度や照明の配置を変えることで、空間が四季を感じさせます。
・イベント演出
クリスマス、バレンタイン、ハロウィンなど、イベント時には装飾と照明を連動させます。
小さなLEDキャンドルをテーブルに配置する、
壁面に季節のオブジェを飾りスポットライトを当てる
――― こうした小さな変化が、リピーターに「今月は何が変わっているかな」という期待感を与えます。
来店者の好みに合わせた心地よさの創出
すべての客が同じ環境を好むわけではありません。明るい席が好きな人、暗い席が好きな人、一人で集中したい人、友人と語らいたい人──多様なニーズに応えるには、「選べる席」を用意することが重要です。
明るい席と暗い席の使い分け
店内に照度の異なるエリアを意図的に作ることで、客が自分の好みに合わせて席を選べます。
・明るい席(500~700ルクス)
窓際、カウンター前など。外の景色を楽しみたい人、読書やPC作業をする人、明るい雰囲気が好きな人に適しています。
自然光が入る昼間は特に人気が出ます。
・中間の席(300~500ルクス)
店内の中央エリア。会話を楽しむグループ客や、カジュアルに過ごしたい人に適しています。
最も汎用性が高く、多くの客がここを選びます。
・暗い席(200~300ルクス)
奥のソファ席、個室風の席、壁際の席。
落ち着いた雰囲気でゆっくり過ごしたい人、デートや大人の語らいを楽しみたい人に適しています。
夕方以降、この席の魅力が高まります。
この3段階の明るさを店内に配置することで、客は無意識のうちに自分に合った席を選びます。
照度の異なるエリアを意図的に作ると、客が自分の好みの席を選べる
一人客・グループ客・PC作業客への配慮
客層によって、求める光環境は異なります。
・一人客
カウンター席や壁際の一人席。
手元が明るく(500~700ルクス)、周囲はやや暗めに設定することで、「自分だけの空間」という感覚が生まれます。テーブルランプや調光可能なペンダント照明があれば、さらに満足度が高まります。
・グループ客
テーブル席やソファ席。
テーブル面は明るく(400~600ルクス)、顔に影ができない配光を心がけます。
会話を楽しむには、お互いの表情が見えることが重要です。
・PC作業客
カウンター席や窓際席。
手元が明るく、かつ画面が見やすい照度(500~700ルクス)が必要です。
グレア(眩しさ)が発生しないよう、器具の配置角度に注意しましょう。可能であれば、コンセントと共に調光可能な照明を用意すると喜ばれます。
ゾーニングによる多様な居場所づくり
店内を「エリア」に分け、それぞれに異なる照明戦略を取ることで、一つのカフェの中に複数の「居場所」が生まれます。
・活気エリア
エントランス付近、カウンター周辺。
明るく(500~700ルクス)、色温度もやや高め(3500~4000ケルビン)に設定し、活動的な雰囲気をつくります。
短時間利用の客、テイクアウト客、回転率を上げたいランチタイムに適しています。
・リラックスエリア
中央のテーブル席。
中間的な明るさ(300~500ルクス)と色温度(3000~3500ケルビン)で、多様な過ごし方を許容します。
・プライベートエリア
奥のソファ席、個室風の席。
暗め(200~300ルクス)で色温度も低め(2700~3000ケルビン)に設定し、落ち着いた大人の空間をつくります。
長時間滞在の客、デート、静かに過ごしたい客に適しています。
このゾーニングを、照明だけでなく、内装素材、家具の配置、BGMの音量とも連動させることで、空間全体に一貫したストーリーが生まれます。
3Dシミュレーションでの検証
・素材の見え方確認
木材、タイル、漆喰──それぞれの素材に光を当てた時、どう見えるか。
配光角度、照射距離、部分照明と全体照明のバランス──これらを3D空間上で再現し、レンダリング画像で確認します。
反射率の設定を正確に行うことで、実際の空間に近い見え方をシミュレーションできます。
白い漆喰壁は反射率70~80%、木材は30~40%、レンガは20~30%──この数値を正確に設定しましょう。
・調光シミュレーション
時間帯ごとの照明変化、ゾーニング別の明るさの違い、調光可能な照明の効果──これらを3Dシミュレーション上でシーン設定し、動画やレンダリング画像で確認します。
「明るい席」「中間の席」「暗い席」の3パターンを並べて見せることで、施主は客がどのように席を選ぶかをイメージできます。
<まとめと次章予告>
入店の瞬間にワクワクする内装デザインと照明は、素材と光の関係性、空間デザインの心理効果、遊び心のある仕掛け、そして来店者自身が光を調節できる自由さが組み合わさって生まれます。
3Dシミュレーションで事前に検証し、施主と共有することで、「思っていた通り」ではなく「期待以上」の空間を実現できます。
次章では、「また来たくなる店内演出と内装素材の最適な組み合わせ」について解説します。一度の来店で終わらせず、リピーターを生み出す照明と素材の戦略をお伝えします。
第7章では、【また来たくなる店内演出と内装素材の最適な組み合わせ】をお届けします。
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







