カフェの照明計画―第1章 非住宅案件の増加背景と住宅/非住宅照明の役割の違い
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カフェの照明計画 ―インテリアデザインにおける照明の効果と役割―
第1章 非住宅案件の増加背景と住宅/非住宅照明の役割の違い
住宅市場の変化がもたらす転機
住宅着工戸数はピーク時の半分以下に減少。少子高齢化、若年層の住宅取得意欲の低下、資材価格の高騰──地域密着型の工務店が、新たな収益源を模索せざるを得ない状況が続いています。
住宅市場は「新築」から「ストック活用」へと軸足を移しつつあり、注文住宅だけでは事業の安定化が難しくなってきました。こうした中、多くの工務店が注目しているのが「非住宅木造建築」という新たなフィールドです。
非住宅案件への参入──地域工務店の強みを活かす
保育園や高齢者施設、小規模店舗や診療所、さらには公共施設まで、木造による非住宅建築のニーズが静かに、しかし確実に高まっています。
その背景には、国の政策的後押しがあります。「公共建築物等木材利用促進法」や「都市の木造化推進法」などにより、非住宅分野でも木材利用が推奨され、2024年の建築基準法改正では、3,000㎡を超える大規模木造建築にも「あらわし設計」が可能となりました。
■公共建築物等木材利用促進法(木促法):
公共建築物での木材利用を積極的に進めるために制定された法律です。国や自治体が整備する低層の公共建築物を中心に、木材化・木質化を推進し、森林資源の循環利用や地域材の活用、CO₂削減に寄与することを目的としています。木材の利用指針の策定や、建築計画段階での木材活用の検討義務などが盛り込まれています。
■都市の木造化推進法:
都市部での木造建築物の整備を後押しするために制定された法律です。耐火・防火技術の進化を踏まえ、中高層建築物や公共施設などで木材を活用しやすくする環境整備を目的としています。安全性と環境配慮を両立しながら、木造化・木質化を都市空間へ広げ、脱炭素化や森林資源の循環利用、地域経済の活性化につなげることを狙いとしています。
非住宅といっても、求められるのは「地域性」と「柔軟性」。ここにこそ、地域工務店の強みが活きます。住宅で培った高気密・高断熱の技術や、快適性を重視した設計力は、福祉施設や店舗などの空間にも応用可能です。
また、地元の法人や自治体との信頼関係を活かし、設計から施工、アフターサービスまで一気通貫して対応できる点も大きな魅力。
非住宅案件は住宅に比べて単価が高く、事業の安定化にもつながります。
■あらわし設計(現し仕上げ)
建物の構造材や下地材を“隠さずにそのまま見せる”設計手法。
通常は仕上げ材(クロス・石膏ボード・天井材など)で覆う梁・柱・天井下地・配管類を隠さず、意匠として積極的に露出させます。住宅・店舗・オフィスなど幅広い場面で採用され、特に木造建築では梁あらわし天井が人気です。
【特徴】
・素材感を活かす:木材や鉄骨の質感・経年変化をデザインとして楽しめる
・空間の開放感:天井の懐を確保し、広く高く感じさせる効果がある
・工期短縮・コスト調整に寄与する場合もある
・施工精度が重要:見える部分が増えるため、仕上がり品質がそのまま評価に直結する など
住宅と非住宅──照明が担う「役割」の違い
非住宅案件へのシフトが進む中で、照明設計に求められる視点も大きく変化しています。住宅と非住宅では、照明の「目的」も「使われ方」も異なり、それぞれに最適なアプローチが必要です。
住宅照明──暮らしに寄り添う「情緒」と「快適性」
住宅照明の主役は、そこに暮らす人々の「感情」と「生活リズム」です。照明は単なる明かりではなく、空間の雰囲気をつくり、心地よさを演出する存在。朝は高色温度で活動を促し、夜は低色温度でリラックスを誘う──住宅照明では、生活リズムに寄り添う「調光・調色」が標準装備となりつつあります。
間接照明やペンダント照明による空間のアクセント、家族の団らんやリラックスを支える光の質感も重要です。ここでは「明るさ」よりも「心地よさ」が優先され、感性に寄り添う設計が求められます。
▲サーカディアンリズムと照明の色
非住宅照明──機能と効率を支える「視環境」
一方、非住宅照明は「業務効率」「安全性」「省エネルギー」が主軸です。
オフィス、店舗、福祉施設など、それぞれの用途に応じて、以下のような要素が重視されます。
作業面の照度確保とグレア(まぶしさ)対策、在室センサーやスケジュール制御による自動化、昼光利用との連携によるエネルギー最適化、高齢者施設では視認性・色温度・眩しさへの配慮──。
たとえば、カフェであれば、客席では料理が美味しく見える演色性を、厨房では作業効率を上げる十分な照度を確保する。高齢者施設では、眩しさを抑えながら足元の安全性を確保する──用途ごとに「最適解」が異なることが、非住宅照明の特徴です。
つまり、非住宅では「誰が」「どのような目的で」その空間を使うかを明確にし、照明がその活動を支える道具として機能することが求められます。
住宅技術の応用と、非住宅ならではの工夫
興味深いのは、住宅で培った照明技術や感性が、非住宅でも活かされる場面が増えていることです。
木造店舗での間接照明による温かみの演出、小規模保育園での色温度調整による落ち着きのある空間づくり、地域診療所での「家庭的な安心感」を照明で演出──。
非住宅であっても、地域に根ざした空間では「情緒性」や「居心地の良さ」が求められる場面が多く、設計士と連動した照明プランは感性が活きる余地は大いにあります。特に夕方以降、心理的にも「静」に向かう時間帯に向けた色温度制御は、空間デザインを上質に演出する大事な役割を担います。
▲三原氏が手掛けた都内のカフェ
これからの照明デザインに求められること
住宅と非住宅の境界が曖昧になりつつある今、照明デザインにも「機能」と「感性」の両立が求められています。住宅で培った感性と、非住宅で求められる機能性──この両立こそ、地域工務店とインテリアコーディネーターの新たな強みとなります。
本連載では、特に「カフェ」を題材に、照明計画の実践手法を具体的に解説していきます。地域工務店と照明プランナーらが協働し、空間の目的に応じた最適な光環境を提案すること。
それが、これからの建築における「地域らしさ」と「持続可能性」を両立する鍵となると考えています。
執筆者紹介
三原 慎一 氏
株式会社 灯り計画(https://design-akari.com/) 代表取締役
北海道出身
土屋ホーム、遠藤照明、パルコスペースシステムズを経て、2014年10月に独立
一般社団法人 照明学会 認定照明士
一般社団法人 日本商業施設士会 認定商業施設士
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 正会員
一般社団法人 日本インテリアプランナー協会 一般会員
照明計画、照明設計、プロダクト、協会活動、住宅、商業、エクステリア、スキー場、竹灯り…そして、マーケティング。いろいろなモノといろいろなコトを掛け合わせながら、商環境の照明ノウハウを住環境に移植する照明プランナーとして活動。最近は子どもたちに「デザインの楽しさ」を伝える「JCD soda(子どもたちと創るデザイン)活動(https://www.jcd.or.jp/jp/soda/)」にも参加しています。
本連載を通して、読者の皆様に灯りの大切さ、灯りの持つ力を知っていただき、「灯りを計画する」という武器を手にしていただければと考えています。







