外構目線での土地選び
- お役立ち
マイホームデザイナープラスをご覧のみなさん、こんにちは。
毎月1回、「日本庭女子会~にわとわに~」のメンバーが “家のまわり” にまつわる情報をお届けしている本コラム。今回で第3回目となりました。
今回は、「外構目線での土地選び」をテーマに、外構専門設計事務所「エクステリア&ガーデン設計室 coniwa」 の藤﨑が担当させていただきます。(プロフィールはこちら)
土地選びは家づくりのスタートライン
新築のための土地選び、多くの方は価格・立地・日当たり・広さなどを条件に土地を探します。しかし、意外と忘れがちなのが、「そこでどんな暮らしをしたいのか?」という視点。
そして、「外まわり」から見た視点です。
一番大切なのは、「快適な暮らし」が実現できること
「快適」と感じる暮らしは、人それぞれ。
一般的に”良い条件”とされている土地でも、ライフスタイルによっては合わない事があります。
例えば、「庭は広い方が良い」という要望が多いですが、草取りや維持管理が負担になってしまったり。
「駅近」を優先した結果、人通りが多くて落ち着かない、など。
土地選びの際は、一人ひとりに合った「快適」を見極めることが大切です。
にわとわにメンバーの土地選び
Aさんの場合
Aさんの希望は、近隣に気をつかわず、ガーデンや家庭菜園がのびのび楽しめるような、ゆったりとした土地。しかし、なかなか理想の条件に合う場所が見つからず、探すこと約2年。
やっと巡り合えたのは、農地の一部を住宅用地として分譲した土地でした。お隣との距離が十分にあり、静かで開放的な環境。さらに地主さんのご厚意で、空いている農地の一角を家庭菜園スペースとして借りることができたそうです。
“自分らしい暮らし方”を明確にして、焦らずじっくり探した結果、満足のいく条件の土地に巡り合うことができました。
Mさんの場合
Mさんが選んだのは、海が見える高台の土地。
リビングはあえて2階に計画し、毎日海を眺めながら過ごせるバルコニーがお気に入りの場所です。
海は北側にあるため、お庭もあえて北側に設けました。リビングからも庭からも眺望を楽しめる、開放的な暮らしを実現しています。
心が解き放たれ、日常の中に“非日常”を感じられる――そんなライフスタイルです。
どちらのケースも「自分たちの暮らしにあった土地」を見極めた好例です。さすが外まわりのプロならでは。建物だけでなく、外まわりの快適さにもこだわった土地選びが印象的ですね。
こうして見ると、土地選びの出発点は「どんな暮らしをしたいか」という理想からはじまっていることがわかります。
憧れや思い込みにとらわれすぎず、日常の過ごし方を具体的に思い描くことで、本当に暮らしやすい土地の条件がみえてきます。
初期ヒアリング段階から、外構の視点を含めて検討していただくことで、住まい全体への満足度が高まりやすくなります。
外構目線で確認したいチェックポイント
理想の暮らしが見えてきたら、次は具体的な条件を確認していきましょう。
ここからは、外構のプロ目線で注意したい土地選びのポイントをご紹介します。
古家が建っていた土地を購入するケース
① 隣地境界をチェック
隣地境界は最もトラブルが発生しやすい場所です。特に既存のブロック・フェンスがある場合は要注意。
古いブロック塀は、ぐらつき、ひび割れや傾きがないか、段数や控え壁(補強壁)の有無を確認し、30年以上経っていそうなら思い切ってやり替えをお勧めします。
建物を建ててから隣地境界部分の解体・改修をするのは、施工効率が低下しコストもかかります。
更地の内に改善しておくのがベストです。
また、塀が自分のものか、隣地のものか、境界線上に建っている隣地との共有物かも要確認です。
やっかいなのが、共有物の場合。
やり替える際は隣地所有者との合意、費用分担の取り決めが必要になります。隣地が空き家の場合は、所有者を探すのも一苦労というケースがあります。
② 道路後退の有無
前面道路の幅が4mを下回っている場合、建築基準法により「道路中心線から2m」の位置まで敷地を後退(セットバック)しなければならず、敷地が狭くなります。
さらに、後退した部分の舗装工事を施主が負担しなければならないケースも少なくありません(自治体によって異なります)。
また、セットバックに関しては、壁道路後退部分の舗装工事を建築会社が行うのか、外構業者が行うのかあいまいなまま進んでしまい、どちらの見積もりにも入っていなかったというトラブルも少なくありません。施工会社まかせにせず、ご自身でも意識しておくことが大切です。
建築、外構で事業者が分かれている場合でも、初期段階から情報共有を行い、協力して進めることで、安心できる家づくりにつながります。
新しく造成された土地を購入するケース
① 既設の擁壁や階段に注意
新しく造成された土地では、擁壁や階段などが完成していることがあります。一見すると「もう外構費用はかからない」と思いがちですが、実はそうとも限りません。
特に高低差が大きい分譲地では注意が必要です。
こんなトラブルはあるあるです。
・EVカーの充電設備を車庫まわりに設置しようとしたが、電気配線がなく、引き込むのに追加費用がかかった
・落下防止用手すり、フェンス設置用の穴をあけ工事で予算オーバー
・階段が下地のままだったため、仕上げに追加費用が発生
造成地=外構費用がかからない、というわけではありません。
外構の予算取りをしっかりしておきましょう。
② お庭の土がひどい!
家庭菜園やガーデニングを楽しみたい方は、土の質もよく見ておきましょう。
造成地は植物を育てるのに適した土質ではないことが多く、良質土への入れ替えが必要になることが少なくありません。もちろん、その分の費用が掛かりますので、予算取りが必要です。
造成地では既設構造物の再利用に制限があるため、フェンスの穴あけや階段加工の可否については、早めに外構業者にご相談を。
建築・外構それぞれの視点を合わせておくことで、より安全で美しい仕上がりにつながります。
そのほか、トラブルになりやすいポイント
① 安い土地には“ワケ”がある
相場より安い土地には、必ず何らかの理由があります。
注意すべき特徴としては、次のようなことがあります。
相場より安い土地に多い「要注意ポイント」チェック
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道路より低い位置にある
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雨天時や台風時に、道路から敷地内へ雨水が流れ込みやすい。
敷地に水が溜まりやすく、床下浸水や地盤沈下のリスクもあります。
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崖に隣接している(台風のたびに警報が鳴ることも)
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台風や大雨の際、崖の崩落や地盤の緩みが起きやすい場所。
ハザードマップ上で「土砂災害警戒区域」や「特別警戒区域」に指定されていることが多く、被害リスクがあります。
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高低差が大きい
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擁壁・階段・スロープなどの外構費が大幅に増えやすく、建物の配置計画にも影響します。
擁壁のひび割れや水抜き穴の詰まりなど、定期的な点検・メンテナンスも欠かせません。
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変形地・旗竿地
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「価格が安い」代わりに設計・外構・採光計画の難易度が高い土地です。
設計・外構の追加費用がかかるケースが少なくありません。
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道路後退(セットバック)が必要
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敷地の一部を道路として提供する必要があり、実際に建てられる面積が減少する場合があります。
後退した部分の舗装工事を施主が負担するケースも少なくありません(自治体によって異なります)。
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地盤が弱い
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地盤改良や杭工事が必要になる可能性があり、費用面での想定外の出費につながることがあります。
この費用は外構・建築費とは別枠で発生するため、事前の資金計画が大切です。
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前面道路が狭く、敷地まで階段や車の通れない道が続く
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「人力小運搬」「別途車両費(駐車場代)」などで施工費がかさみます。
などなど。
これらの特徴がある土地は、一見お得に見えても、追加費用や追加工事といった施主の負担が増えることを知っておきましょう。
特に外構視点で避けたいのが、道路より低い位置にある土地です。
こうした土地は「道落ち」と呼ばれ、大雨の際に道路から水が流れこみやすく、浸水の危険があります。
外構計画において、水の処理は最も大切なポイントのひとつ。道落ちの土地では、そもそも水を逃がすルートを確保することが難しく、根本的な解決が困難になります。
② 広すぎる土地
施主は、家づくりの夢がふくらむと、つい「庭は広い方がいい」と考えがちです。
しかし、外構は面積に比例して費用が増え、維持管理の手間もランニングコストも右肩上がりになることを忘れてはいけません。
よく「外構予算は、建築費用の何%が目安」と言われますが、実はほとんど参考になりません。実際には、広さや舗装や植栽などの内容によって、大きく変動します。つまり、見積もりしてみないとわからない、というのが現実です。
快適なライフスタイルの中で、無理なく維持できる広さはどれくらいか、冷静に見積もってみることをお勧めします。
③ カーポート屋根がつけられない?
「カーポート屋根は絶対付けたい」という方、多いですよね。
ですが、カーポート屋根は建築面積に含まれるため、後から追加しようとしても、建ぺい率オーバーで設置ができないケースがあります。
間取りを考える段階で、カーポート屋根の有無を検討することをお勧めします。
施主の方が建築会社にカーポートの希望を伝えていない場合、外構計画の段階で建ぺい率オーバーに気づくケースも少なくありません。
初期ヒアリングにカーポートの有無を加えていただくことで、後から設置できないといった行き違いを防ぐことができます。
外構目線での土地選び まとめ
大切なのは「理想の暮らし」と「譲れない条件」を明確にしておくこと。それだけで取捨選択ができるようになり、後悔のない家づくりに近づきます。
家づくりは大変なことも多いですが、一歩一歩、理想の暮らしに近づいているはずです。どうぞ、その道のりを楽しんでくださいね。
「道路や高低差」「排水計画」「駐車動線」などは、建築だけでなく外構計画にも影響します。
早い段階で外構担当と情報をすり合わせておくことで、後の調整や予想外の追加費用を減らすことにつながります。
施主の方の理想の住まいに向けて、建築会社と外構会社で協力しながら進めていければと思っています。
筆者紹介
連載『家づくりは“外まわり”で決まる ― 外構から考える住まいづくり』
外構の大切さを理解し、心から安心できる住まいを築いてほしい——そんな思いから始まった「日本庭女子会〜にわとわに〜」のコラム。新築計画に役立つ外構の知識やアイデアを、月1回更新でお届けします。
プロフィール
日本庭女子会〜にわとわに〜
エクステリア・ガーデン業界やそれをとりまく業種に従事する・携わる女性たちが、交流や情報交換を目的とし2017年に活動開始。
「庭や外部空間を美しく快適にすることが、住まいや暮らしを豊かに送るのに不可欠なことであり、ひいては日本の街並や景観・環境を美しく創り保ってゆくのに重要な役割を担っている」
また「住まい手だけでなく造り手・働き手の身になって考え、幅広い知識で美しく機能的な空間を造っているプロフェッショナルな女性たちがいることを知ってほしい」
そんな熱き想いを持った庭女子たちが、所属や経験・年齢を超え様々な切り口の委員会を組織し、日本各地で活動・躍動中。現在メンバー150人超。
https://niwatowani.jp/執筆者
藤﨑 香奈子
外構専門の設計事務所「エクステリア&ガーデン設計室 coniwa」代表。
ハウスメーカーや外構専門店向けに外構図の作図サービスを提供するほか、建材メーカー向けの販促用CG制作、個人向けの外構オンライン相談などを行う。外構CADのプロとして、社員研修・セミナー講師としても活動中。
にわとわにプロフェッショナル会員。
2級建築士、1級造園施工管理技士、1級土木施工管理技士。
E&Gアカデミー講師。







