作業療法士ICが伝える部屋別チェックポイント 55歳からのインテリアの作り方【お風呂】

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事故多発エリア「お風呂」 ~リラックスは大事、でも安全性はもっと大事!~

序章でもお伝えしましたが、実は交通事故よりも多くの人が家庭内の事故で命を落としています、その数、なんと4倍以上。中でも「不慮の溺死および溺水」は家庭内事故の約4割を占め、もっとも多いのが浴槽での事故死。
リラックスには欠かせないお風呂場は、とてもとても危険な場所でもあるのです。
今回のテーマはその“お風呂場”について、安全の視点からお話ししていきます。

浴槽の安全

在来工法のステンレス浴槽からユニットバスへのリフォームを検討されている方も多いかもしれません。

ステンレス浴槽。

ユニットバス

最近のユニットバスは「リラックス効果」がうたわれ、足を伸ばせる浴槽、肩湯、調光機能つきの間接照明など、まるでスパのような仕様も増えていますね・・・・・

でも、ちょっと待って!

入浴中の安全、特に“溺れない”という観点ではどうでしょう?

昔ながらの体操座りで入る和風浴槽は、足を突っ張りやすく、姿勢の保持に優れています。
一方、足を伸ばせる洋風浴槽では、お尻がずれると浴槽の背中側も傾斜しているので滑りやすく、ずぶずぶっと沈んでしまうリスクが高くなります。

ですから、小柄な方や高齢者がいるご家庭では、ショールームで実際に座って確認してみることをおすすめします。
浴槽内に段差があって踏ん張れるタイプや、浴槽の内側に手すりがつけられるタイプを選びましょう。
浴室内の手すりや、シャワーの前の手すり兼用スライドバーなどはリフォームの際に検討されやすいアイテムですが、浴槽内の手すりは忘れられがち。オプションであることが多いですが、20年以上使うことを思えば、体力の衰えに備えた“必須アイテム”です。

浴槽内手すりは体力の衰えに備えた”必須アイテム”

手すりのはなし

手すりといえばもうひとつ。

浴室の出入口におすすめなのが「オフセット手すり」です。

オフセット手すりはL字のように持ち出された形状で、開口ににぎり棒を寄せることができるので、一本つけるだけで入る時も出る時も握りやすく、とても便利です。

【I型手すり】
ドアの縁から少し離れた場所に付けるため、手首がかえり握りにくい

【オフセット手すり】
ドアの近くに握り部が来るので、手首を返さず握りやすい

オフセット手摺は、ドアに干渉しないなら、ドアの枠から少し出して設置するのがおススメです。少し離れたところから手を伸ばすだけでつかめるので安心です。

オシャレさよりも見えやすさ

お風呂は家の中でも「見えにくくなる場所」です。メガネを外して入り、湯気で視界もぼやけがち。
若い人でも視力が悪ければ危険が増しますし、高齢者は白内障や加齢黄斑変性など、加齢による視力変化が避けられません。

白内障とは
眼の中のレンズが加齢とともに白濁してくる病気です。
早くて50歳代から発症し、80歳代ではほとんど全ての人が白内障になるとされています。

加齢黄斑変性とは
黄斑変性は、眼の網膜の黄斑部が変性する病気の総称で、加齢によるものを加齢黄斑変性と言います。
視界の中心が歪んで見えたり、見えなくなったりします。

高齢者施設の浴室イメージを“入浴中の白内障の方の見え方”をイメージして加工してみました。
手すりや小物の色が壁と同化していると、本当に見えづらくとっさの時に危険です。
だからこそ、洗面器や椅子などは壁や床とは違う“目立つ色”にしてなるべく視認性を挙げておくのが安全策です。

くっきり見えているとき

白内障の方の見え方(イメージ)

最近では、家庭の浴室も壁にダークなカラーを配して、そこにシルバーや黒っぽい手すりを付けたり、リラックス効果をもとめて浴室はやや照度を下げた設計がされることもあります。
しかし、高齢者にとっては「見えにくくなる場所」であることを考慮して、オシャレさよりも安全性を第一にした色彩・照明計画をおすすめします。

親御さんなどが泊まりに来られるなど、慣れない人も使用することを考えると少しでも見えやすくしておくと安心ですね。

「浴槽レス」という選択肢も

ここまでお風呂=浴槽という前提で話してきましたが、実は近年、「浴槽レス」も注目されていて、20歳代ではすでに6割以上がシャワー派ともいわれています。
また、そもそも、浴槽がなければ「溺れる」こともないので高齢者の浴槽溺死事故防止の観点からも注目されています。

浴槽をなくすことで、こんなメリットも。風呂場のリフォームの際には参考にしてください。
 

  1. ヒートショック対策に
    暖かい部屋から冷えた脱衣所に入って服を脱ぐことで血管が縮まって血圧が急に上がります。その後、熱いお湯に入って体が温まると血管が広がり高くなった血圧が急に下がります。この急激な血圧の上下がヒートショックの原因です。浴槽がないことで急激な血圧変動を防げます。

  2. 浴室熱中症の予防
    お風呂での溺死の原因に意外と多いのが浴室熱中症です。長年、冬の風呂での死亡事故の原因は、ヒートショックだと言われてきたのですが、最近になって、実はヒートショックではなく、「長時間の入浴による、熱中症によって亡くなっている」という見方が有力視されるようになってきています。

  3. 介助がしやすい
    浴槽がない分、広く、手すりの位置も自在に。車いすごと浴室にはいることもできます。

  4. 掃除がラク
    高齢になると浴槽掃除は大変。浴槽レスなら日々の負担が軽減されます。

  5. 光熱費の削減
    お湯をはらずにシャワーでぬくもると水道光熱費がかかるのでは?と心配になりますが、人数によってはシャワーのほうが経済的な場合もあります。

複数のシャワーノズルから一斉にお湯が出て来るシャワーいろいろ。中には”5分で全身ぽかぽかになる”と謳っているものも。

最近はビジネスホテルでも見かけるようになってきました。(編集部)

お風呂は一日の疲れを癒す場所。でも、同時に“家庭内で一番危険な場所”でもあります。
55歳からの暮らしに合った、安全で心地よい浴室づくりを考えてみてはいかがでしょうか?

もくじ

1.序章 ~家の中には危険がいっぱい
2.キケンエリア「階段」 ~絶対にころびたくない場所!階段のはなし
3.家の顔「玄関」 ~上がり框・アプローチ・手すりのはなし
4.転倒が多い「トイレ」 ~大切な4つのポイント
5.事故多発エリア「お風呂」 ~リラックスは大事、でも安全性はもっと大事!
6.リビング ~ラグを敷く?敷かない?つまづきのはなし
7.ダイニング ~”つまる”と座位姿勢のはなし
8.寝室 ~カーペットのはなし

執筆者紹介

松本 理絵

作業療法士(国家資格)
インテリアコーディネーター/二級建築士
有限会社宮本家具工業所 副社長
Web
 公式:トータルインテリア専門店 ミヤカグ
    インスタグラム も更新中
広島県インテリアコーディネーター協会 副会長

広島大学医学部保健学科を卒業し、広島市内にて作業療法士として病院で高齢者のリハビリの仕事に従事。
その後、結婚を機に夫の家業である家具製造販売会社に入社。
入社後インテリアコーディネーター資格、二級建築士資格を取得し、現在では「広島一敷居の低いインテリアコーディネーター」をキャッチコピーに、お客様の生活空間を豊かにするためのインテリアを提供している。
「元医療職をいかして、目の前の困っている人のニーズをしっかり拾って寄り添ったリフォームやアイテム選定など心がけています。」

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